京大卒の主夫

京大は出たけれど、家庭に入った主夫の話

2014年~2018年の本ベスト約50冊

#2018年の本ベスト約10冊 というようなタグをつけて、毎年twitterでその年に出版された本の名前を挙げていました。が、まとまってレビューを書いたことが今まで無かったので、2014年~2018年までの約5年間分をまとめてお送りします。

長いので、目次つけておきますね。

 

 

2014年の本ベスト約10冊

『生まれた時からアルデンテ』平野紗季子

生まれた時からアルデンテ

生まれた時からアルデンテ

 

 昨年(2018年)に写真家の奥山由之さんと結婚された平野さん。食べ物への思いが強く、そして真っすぐです。特になにかのレシピを紹介するわけでも、どこかのレストランを紹介するようなものでもないのに、読んでいるとお腹が空いてきてアイスクリームが食べたくなったりします。カフェなんかによく似あう本です。

好きなものについてひたすらに語る人の文章は、いつでも面白いです。

『 あわいの力』安田登

あわいの力 「心の時代」の次を生きる (シリーズ 22世紀を生きる)

あわいの力 「心の時代」の次を生きる (シリーズ 22世紀を生きる)

 

よくよく見ると2013年の本ですね。まあいいか。「あわい」とは”あいだ”とか”境界”のことです。いまでも、そういう曖昧なものに心惹かれることが多いのですが、鬱と診断されたばかりで本格的に気分が沈んでいた当時は、今以上にそういう実世界とは離れた世界のことに思いをはせていたようです。

 

 『境界の町で』岡映里

境界の町で

境界の町で

 

 より分かりやすく「境界」を描いたのがこちら。ここでの「境界の町」とは福島の原発事故20km圏内の楢葉町のことを指しますが、東京と福島を行ったり来たりする作者の”寄り添いたいけど、絶対に寄り添えない”当事者とのあいだにある大きな壁のことも表現しています。ノンフィクションの私小説として、とてもリアルに揺さぶられている作者の心が伝わってきます。

岡さんは、はてなブログもやってますね。少し病んでいたようですが、筋トレで回復したのでしょうか。

 

『カタツムリが食べる音』エリザベス・トーヴァ・ベイリー

カタツムリが食べる音

カタツムリが食べる音

 

 2014年に何度も読み返した本です。病床に臥して動けない著者が、カタツムリのゆっくりと進む時間と同調しながら、自分の時間を取り戻していきます。

私自身は、ちょうど鬱で休職していたころに読んで、現実の世界のあまりにも早いスピードについていけなかった当時の自分の姿がそのまま重なって、泣きそうになりながら『カタツムリが食べる音』を想像しながら読んでいました。

 

 『思考の取引』ジャン・リュック・ナンシー

思考の取引――書物と書店と

思考の取引――書物と書店と

 

書店と書物への偏愛がひたすらにかっこよく語られている、それだけの本です。大げさなタイトルで、難しそうに書いていますが、内容はそれだけです。だから、この本が好きです。良い本は、いい匂いがします。まさに。

 

 『弱いつながり』東浩紀

ゲンロン、大変そうですが無事畳めたんでしょうか。東さんにしては読みやすい本です。要約すると、弱いつながりのほうが強い、ということです。

知ってる世界の知ってるつながりだけじゃないつながりをたくさん見つけようぜ、という提案ですね。安心な僕らは旅に出よう。いいと思います。

 

『親のための新しい音楽の教科書』若尾裕

親のための新しい音楽の教科書

親のための新しい音楽の教科書

 

褒めているレビューより批判のほうが目立つ本だと思います。親のためであって、子どものためではない本です。この本についてはただ一つ「なぜ子どもは大声で歌う必要があるのか」という問いがあるから、評価しています。 

 

 『復興文化論』福嶋亮大

復興文化論 日本的創造の系譜

復興文化論 日本的創造の系譜

 

これもちょっと読みにくい本です。これ震災からの復興とかそういう文脈ではなく、 「国破れて~」の文字通り復興期の文学や文化についての話です。別に村上春樹みたいな淡々としたものだけが現代文学とは思わないし、文学って後ろ暗くってでも熱量のあるのがいいよね、と思います。もっと本を読みたくなる本です。

 

 『反骨の公務員、町をみがく』森まゆみ

反骨の公務員、町をみがく---内子町・岡田文淑の 町並み、村並み保存
 

街並み保存にまつわる話です。美観(伝健)地区って、保存のためには大事なんだけど結構面倒なんですよね。地域の古いものを残すことと、新しいものを作っていくけなくなることとの葛藤のなかで、本当にそこに価値は見いだせるのか、もし維持管理できなくなったらどうするのか。

新しいものが大好きで特に住宅においてはなおさら、という日本の社会のなかで地域の価値を改めて考えたくなる本です。

 

『街場の戦争論内田樹 

街場の戦争論 (シリーズ 22世紀を生きる)

街場の戦争論 (シリーズ 22世紀を生きる)

 

みんな大好き、内田先生です。「なぜこの国は戦争をしたがっているようにみえるのか」という問いに答えている本です。 当時はまだまっとうなことに怒りを向けれていた気がします。今となってはモリカケや統計のウソですよ。

 

『逢沢りく』ほしよりこ

逢沢りく 上 (文春文庫 ほ 22-1)

逢沢りく 上 (文春文庫 ほ 22-1)

 

当時の話題作ですね。ろくでもない毒親から逃げた女の子の話です。大阪いいとこよ。

どうにもならない閉塞感みたいなのが、淡いタッチで描かれているのがいいですね。みんな、もっといろんなものから逃げていい。

 

2015年の本ベスト約10冊

 

『家族の哲学』坂口恭平 

家族の哲学

家族の哲学

 

坂口恭平さんは、巷では変人扱いされるか、すごい人扱いされるか、どちらかだと思います。言動もおかしいし、躁うつ病だし。

でも、なんかこういうふうに自分の病気のことを子どもに伝えるのもいいな、「弱さ」をこんなにもひけらかすことのできる人っていいな、と思います。もっと人は弱くていいし、それを子どもにも伝えたい。

 

『人生最後のご馳走』青山ゆみこ 

緩和ケア病棟における最後の食事を取材した本。最後になにが食べたいかなぁ、私はプリンが食べたいです。高級な手作りぷりんじゃなくて、プッチンプリンです。

とても丁寧な取材で、食べ物からその人の人生観に迫ります。良いです。最後にプッチンプリンを食べる人生は、どんなふうに語られるだろうか。

 

 『断片的なものの社会学』岸政彦

断片的なものの社会学

断片的なものの社会学

 

社会学、としているけど、なにか社会について述べているわけではない、ただ人々の生活の断片を聞き書きしたものです。でも、その断片的なものをとても丁寧に大切に扱っているから岸さんの本は好きです。社会学が嫌いな人も、ぜひただのエッセイとして読んでほしい。

 

 『かわいい夫』山崎ナオコーラ

かわいい夫

かわいい夫

 

作家の夫、ってどんな人だろうと気になって。私は「かわいい夫」ではないけれど、でもこの本や植本一子さんの本あたりからいろいろな作家が家族本を書き始めたように思います。私自身も、生活を立て直そうといろいろ試みていて、新しい家族の中での立ち位置を探していました。

この年のテーマは『家族』でした。

 

 『べつの言葉で』ジュンパラヒリ

べつの言葉で (新潮クレスト・ブックス)

べつの言葉で (新潮クレスト・ブックス)

 

母語ベンガル語アメリカ育ちで英語を使う著者が、イタリア語で文章を書きます。

新たに「べつの言葉」を学ぶことを著者は「湖を渡る」ことに例えています。周囲の浅いところをぐるっと遠回りするのではなく、自分の力で向こう岸まで泳ぎ切ると。

たしかに周辺だけなら、わりとすぐに覚えられるけど、深いところを泳ぐのには技術がいる。でも深いところのほうがきっと水はきれいで見える景色も違いますね。

 

『本屋になりたい』宇田智子

本屋になりたい: この島の本を売る (ちくまプリマー新書)

本屋になりたい: この島の本を売る (ちくまプリマー新書)

 

私もなりたい、本屋さん。宇田さんはかっこいいです。沖縄の市場で小さな古本屋を営んでいます。そんな人生は歩めそうにないけれど、宇田さんの文章からいつも本屋になった自分を妄想しています。プリマー新書は、中高生向けに書かれた新書なので、読みやすいですね。

 

『レコードと暮らし』田口史人

レコードと暮らし

レコードと暮らし

 

レコードで録音された生活の声、人々の暮らしを綴っています。そうか、音楽以外も録音できるよなぁ、とレコードに明るくない私は目から鱗で面白く読みました。最近レコードプレーヤーが気になっている私です。

 

『ホフマニアーナ』 アンドレイ・タルコフスキー

ホフマニアーナ

ホフマニアーナ

 

タルコフスキーはロシアの映画監督です。ロシアで美的な文化を追求する人はだいたい暗いですよね。ホフマンを題材にしたこの戯曲も、狂っています。それが、でも美しいんです。人の心の醜さと向き合って描き切るのが、文学でもあります。

 

 『服従』ミシェル・ウェルベック

服従 (河出文庫 ウ 6-3)

服従 (河出文庫 ウ 6-3)

 

ウェルベックはSF作家ですが、現実に起こりそうな非現実を描きます。虚構新聞の社主みたいですね。社会の不安をそのままSFにしている巧さは、単純に面白いです。こちらも十分にあり得た未来だと思います。マクロン後のフランスはどうなるでしょうか。

 

『コドモノセカイ』岸本佐知子

コドモノセカイ

コドモノセカイ

 

私は海外文学は割と苦手ですが、岸本佐知子さんのファンです。こちらは子どもを主題とした外国文学を拾い集めたもの。変わったお話が読みたい方向けです。子どもの世界は予想のつかない想像に溢れた世界なので。

 

twitterには書いていないけど、これも追記。

『へろへろ』鹿子裕文

へろへろ 雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」の人々

へろへろ 雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」の人々

 

とにかく面白いです。老人ホームをめぐるドキュメンタリーのような話なんですが、とにかく波乱万丈な展開がすごいです。実話です。それでいて、本当にすばらしい介護施設を作っている。これを読んでから、わたしもなりふり構わず1円でも節約して1円でも稼ごうと思いました。圧巻の一冊。

 

 2016年の本ベスト約10冊

 

 『かなわない』植本一子

かなわない

かなわない

 

ただ圧倒された本です。自分の家族を描いたエッセイで、こんなにむき出しの感情に出会うとは。彼女の家族の話は、この後も長くずっとジェットコースターのように走りながら続いています。

 

『やがて海へと届く』彩瀬まる 

やがて海へと届く

やがて海へと届く

 

彩瀬まるは、若手?作家の中では一番好きな作家です。外れはほとんどありません。こちらの震災を描いた文学は、昨年話題になった「美しい顔」よりもずっと的を得ています。

 

『死すべき定め』アトゥール・ガワンデ

死すべき定め――死にゆく人に何ができるか

死すべき定め――死にゆく人に何ができるか

 

「死」について、考える時間がもっと欲しいと最近思っています。今年は改めて読み直したい本。「死」の瞬間、そのあとのこと、豊かな人生を描くには、どこまで描けばいいんだろう。

 

『このあとどうしちゃおう』ヨシタケシンスケ

このあと どうしちゃおう

このあと どうしちゃおう

 

分かりやすく絵本で「死」を描いたものがこちら。 こんなふうにフランクに考えたい。生きることも、死ぬことも。

 

 こちらでも言及しています。

lazyplanet.hateblo.jp

 

『「その日暮らし」の人類学』小川さやか

「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済 (光文社新書)

「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済 (光文社新書)

 

アフリカの小商いのフィールドワークをするのに、自らもアフリカの商人になって10年近く研究している、という、そのストーリーだけで大好きな小川さやかさん。彼らのずる賢さ、生き抜く知恵を肌で感じたままに紹介しています。「その日暮らし」の経済、面白い。もっと都市を飼い慣らそう。

 

 『ヘンリー・ソロー野生の学舎』今福龍太

ヘンリー・ソロー 野生の学舎

ヘンリー・ソロー 野生の学舎

 

今福さん、ぜひソローの訳本を出してください。

ソロー、どの訳も読みづらいなぁと思っていたのに、今福さんのこの本ではとても読みやすい。森の生活、いいなぁ。

(※だんだんレビューが雑になってる)

 

『村に火をつけ、白痴になれ』栗原康 

村に火をつけ,白痴になれ――伊藤野枝伝

村に火をつけ,白痴になれ――伊藤野枝伝

 

栗原さんはちょっと危険な人物だと思っています。伊藤野枝についてこんなに熱く語っているのだから。 熱すぎてちょっとついていけないけれど、この語りは面白いです。アナーキズムにはならないでください。

 

移動図書館ひまわり号』前川恒雄

移動図書館ひまわり号

移動図書館ひまわり号

 

移動図書館って面白いですね。うちの団地にも今も来ます。これから、また流行ってもいいんじゃないかな、と思う。本を必要としている人は、今もまだたくさんいます。この本もまた、紙でしか読むことができません。こういう本が巡り巡ってくるような図書館の在り方を、改めて考えたくなります。

図書館の黎明期を作ってくれた偉人の名著です。

 

コッペパンの本』木村衣有子

コッペパンの本

コッペパンの本

 

コッペパン、おいしいですよね。私も好きです。いろんなパン屋への丁寧な取材、食のエッセイを書かせたら間違いのない木村さん。パン作りに興味はないですが、パンの本って読んでると面白いですね。生活に寄り添った身近なテーマだからこそ、読むほどに味わいがあります。

 

『 一汁一菜でよいという提案』土井善晴

一汁一菜でよいという提案

一汁一菜でよいという提案

 

 いわゆるレシピ本ではないですね。タイトルが全てです。いいじゃないですか、一汁一菜で、という提案です。いいと思います。お味噌汁の具材をたっぷりにするのも、なんか満足感あります。

我が家の食卓を変えた一冊です。

 

2017年の本ベスト約10冊

 そろそろ疲れてきましたね。あと2年です。がんばりましょう。

 

 

『 あるノルウェーの大工の日記』オーレ・トシュテンセン

あるノルウェーの大工の日記

あるノルウェーの大工の日記

 

手触りのいい本です。DIYが好きで、大工仕事にちょっと憧れていたり、山が好きで、自然の遊びがしたいといった方にお勧めです。クラフトマンな日常が描かれているだけで、なんか楽しいです。わたしにとってはそれが、非日常的な体験です。

 

『街と山のあいだ』若菜晃子

街と山のあいだ

街と山のあいだ

 

山に登れないのに、山について書かれた本が好きです。いや、登ろうとしたことはあるし山も好きなんですが。でも、ここに書かれているような”街と山のあいだ” のようなものが好きなのかもしれない、と思う。もっとカジュアルに日常に接続されるような、山の空気感が。街でもカジュアルに登山ウェアを着る人も増えましたよね。

 

『とりとめなく庭が』三角みづ紀

とりとめなく庭が

とりとめなく庭が

 

詩人の書いたエッセイです。だから、というわけではないけれど、とても透明度の高い美しい文章です。言葉の感触を丁寧に感じ取りたい、と思った時にふと読み返します。いい加減な気持ちをしゃんとさせてくれるような、気持ちのいい朝の空気のようです。

 

『退屈をあげる』坂本千明 

退屈をあげる

退屈をあげる

 

猫は文学には欠かせない存在です。だから、こういう新しい物語も大歓迎です。世の中にとらわれず、気まぐれで、よく眠る、猫。猫の苦労も知らないで、と言われそうですが、猫になりたいです。

 

 『それでも それでも それでも』齋藤陽道

それでも それでも それでも

それでも それでも それでも

 

齋藤さんの写真が好きです。彩度の高いギラギラした世界から離れた、ざらざらした手触りのあるホッとする写真を撮る人です。文章ものびやかでいいなぁ、と両方が楽しめるのがこの本です。齋藤さんは、耳が聞こえないのですが、特にそういうことを感じさせないし、むしろ彼の長所として活きているように感じます。2018年にもかかわらず2冊エッセイを出しています。どちらも良書です。

 

 『くちなし』彩瀬まる 

くちなし

くちなし

 

またまた登場、彩瀬さんです。こちらの作品も良いです。ご本人もおそらく川上弘美さんを意識しているんじゃないかと思いますが、川上作品が好きな人は是非、という一冊です。間違いなく、その系譜を継いでいく作家です。幻想的で美しい、そういう作品です。

 

『あなたとわたしのドキュメンタリー』成宮アイコ 

あなたとわたしのドキュメンタリー 死ぬな、終わらせるな、死ぬな

あなたとわたしのドキュメンタリー 死ぬな、終わらせるな、死ぬな

 

生きづらさのカタマリみたいな内容の本ですが、それでも死ぬな、というメッセージが強烈です。 いまの自分の発信につながる、勇気を与えてくれた本です。どん底を経験しているから、言葉の強さのなかに優しさがあります。

 

ギリシャ語の時間』ハン・ガン 

ギリシャ語の時間 (韓国文学のオクリモノ)

ギリシャ語の時間 (韓国文学のオクリモノ)

 

 韓国文学のオクリモノは晶文社から出ているシリーズですが、どれも素晴らしいです。斎藤さんも積極的に翻訳してくれていて、2018年は韓国文学ブームが話題になるほどでした。『ギリシャ語の時間』は、はじめて読む韓国文学としてオススメします。

韓国もどこか日本によく似た国だと思います。経済的には成長しているのに、どこか社会不安に包まれた後ろ暗い感情が埋まっているような。

そういう国のそういう時代の文学は輝いています。

 

『中国が愛を知ったころ』 張愛玲

中国が愛を知ったころ――張愛玲短篇選

中国が愛を知ったころ――張愛玲短篇選

 

こちらは中国のフェミニズム文学です。中国はいつの時代もなんか後ろ暗いせいか、いつの時代も文学は輝いていますね。独特の悲壮感がつきまとう、ねっとりした文章が続く美しい作品です。

 

AM/PMアメリア・グレイ 

AM/PM

AM/PM

 

 小さな章に区切られた、朝と夜が繰り返される、その断片が流れていくような小説です。一つ一つ短いので、電車の移動中にでも。

 

 『子どものための精神医学』滝川一廣

子どものための精神医学

子どものための精神医学

 

子どものための、となっているけれど、精神医学全体の流れも分かりやすく解説しています。そのうえで、子どもの発達心理のことや育児・教育の過程のなかで躓きそうな部分について、丁寧に解説しています。育児本として読んでも優秀ですし、こころの問題を考えるうえでも有用な素晴らしい一冊です。 

 

 『中動態の世界』國分巧一郎

twitterでは書いてないけど。私の周りでは2017年に最も話題になった本かな、と。17年中に読み切れませんでした。が、すごく面白い。能動態・受動態の対比ではなく、「中動態」というのが、古代のギリシアにはあった、と。実は日本にもあった、と。

これをつかって権力構造なんかを説明すると、小難しいヘーゲルとかの理論が鮮やかに分かるんです。その鮮やかさが見事です。

この年流行った「忖度」なんかも似たところがありますよね。能動でも受動でもないけれど、権力に先回りして行動してしまうような。

 

2018年の本ベスト約10冊

ようやく最後の10冊です。

 

 

『悲しくてかっこいい人』イ・ラン

悲しくてかっこいい人

悲しくてかっこいい人

 

韓国のシンガー・ソングライター、コミック作家、映像作家、イラストレーター、エッセイストなど、いろんな肩書がついているイ・ランさんのエッセイ。

日本で言うところの、寺尾紗穂さんみたいな感じでしょうか。とても素敵な文章を書きます。どことなく暗い時代を生きている悲しさと、儚さみたいなのが混じりあっています。Youtubeでいくつかの楽曲を聴くことができますが、歌も良いです。ハングル覚えたいな。

 『彗星の孤独』寺尾紗穂

彗星の孤独

彗星の孤独

 

最近は、シンガーソングライターとしての活動よりも文筆家としての活動が目立っているかもしれません。そんな彼女の久しぶりのただのエッセイです。いろんな社会問題に身を投げていく彼女の行動力も、それを繊細な筆致でどこまでもたよりないものの味方として描く能力も本当に素晴らしいです。 が、あまりにも当事者に寄り添いすぎていて、社会問題を描いた本は、総じてすべて重いです。

こちらは、特定の問題について書いたものではなく、彼女の普段からの問題意識や考えているよしなしごとについて書かれているので、比較的ライトでオススメです。

 『音楽のまわり』という本は、自費出版的に書かれたものです。彼女のまわりの音楽家たちの音楽とは関係のない与太話が書かれています。ユザーンの章だけ、爆笑しました。

 

 『猫はしっぽでしゃべる』田尻久子

猫はしっぽでしゃべる

猫はしっぽでしゃべる

 

熊本の橙書店の店長、田尻さんのエッセイです。最近流行りの書店員本ではあるのですが、長い間小さな町の本屋さんを続けている田尻さんの言葉は、普段から本に囲まれて暮らしている人独特のにおいが感じられて好きです。熊本って行ったことないのですが、文芸誌の『アルテリ』なども田尻さん中心に発刊されていて、どことなく文学の薫りが漂っているイメージです。いつか行ってみたいなあと思いながら、楽しく読みました。

 

 『市場のことば、本の声』宇田智子

市場のことば、本の声

市場のことば、本の声

 

沖縄の市場で、とても小さな古本屋さんを営む宇田智子さんの本です。あ、2回目か。本当に、生き方がかっこいいんですよね。 お店を営みながらも、こうして何度も本を出して多くの人に声を届けることができているのは、彼女自身が毎日の暮らしを繰り返しながらも、常に小さなお店から本を通していろんな世界を見続けているからだと思います。そういう人の言葉は、とても心に響きます。

 

 『ことばの生まれる景色』辻山良雄

ことばの生まれる景色

ことばの生まれる景色

 

私の本の情報の8割は、辻山さんから仕入れています。Titleという小さな本屋さんを営んでいる辻山さんですが、以前は池袋のリブロの店長をしていました。当時からtwitterでの発信を続けていて、非常に素晴らしい選書を呟いていました。ことばの生まれる景色も、いろいろな本の紹介をしています。nakabanさんが添えたイラストと辻山さんの書物愛のあふれることば。本好きには堪らない一品です。

 

『みえるとかみえないとか』ヨシタケシンスケ伊藤亜紗 

みえるとか  みえないとか

みえるとか みえないとか

 

絵本です。「目の見えない人は世界をどのようにみているのか」 という伊藤さんの新書を絵本化したものです。ヨシタケシンスケさんのデザインの力によって、とてもわかりやすく読むことができます。

 詳しくはこちらにも。

lazyplanet.hateblo.jp

 

 『マンゴーと手榴弾』岸政彦

マンゴーと手榴弾: 生活史の理論 (けいそうブックス)

マンゴーと手榴弾: 生活史の理論 (けいそうブックス)

 

社会学はどこから来てどこへ行くのか』という本を読んで、どうして岸さんだけこんなに悩んでいるんだろう、というのがよく分からなかったんですね。そこで、彼の最新の単著を読んでみることにしました。岸さんは研究者として、いろんな人の話を聞き、そこから社会問題を考える職人です。でも、人々の経験と社会問題を安易につなぐことはできないし、でも当事者の経験に裏打ちされない社会問題研究になんの意味があるのか、というところの逡巡が、とても伝わってきます。

それは研究者としてとても大切な「やさしさ」だと思います。そういう「やさしさ」の詰まった本です。

 

 『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』小川たまか

「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。

「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。

 

タイトル長いですが、言いたいことは分かりやすいと思います。小川さんは、#Metooの問題をはじめ女性が抑圧されている、その当事者の声を積極的に発信しているジャーナリストです。

もちろん声を上げ始めた女性たちを応援したいし、「ほとんどない」ことにはしたくない。本当に女性が生きやすい社会は、男性も生きやすい社会だからです。

 

『82年生まれ、キム・ジヨン』チョ・ナムジュ 

82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)

82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)

 

『ほとんどなかったことに』されてきた韓国の女性の小説です。同じことは韓国でも起きている、という話でもあるし、ただふつうに生きているだけなのに、どうしてこんなに苦しいのか、というのがひしひしと伝わってきます。Amazonレビューに韓国の男性らしき人の☆1レビューが並んでいるのを見ると、事態の深刻さが分かります。

 

『最初の悪い男』ミランダ・ジュライ 

最初の悪い男 (新潮クレスト・ブックス)

最初の悪い男 (新潮クレスト・ブックス)

 

安定のミランダ・ジュライ、岸本訳です。海外文学ファンならたいてい買っているはずです。最初の悪い男、というタイトルの付け方が非常に上手いです。 一筋縄ではいかないストーリーを見事に訳しきる岸本さん、すごい。荒唐無稽な二人の女性を描いた小説ですが、どこか愛の感じられる物語になっています。映画にしたらすごくいいだろうな、と思う。

 

 

終わりに

書き始めて、後悔しました。ここまで、約15,000字。まあ、でも書き始めたら止めるのももったいないし、とようやく書き終わりました。普段あんまりレビューとか書かない人間だったので、振り返ってみるのもいいかな、と思いました。

メルカリで売ってるから、半分以上は手元に無いのですが。でも、いい本は、買い直したくなるんですよね。

これ書いている途中も、何冊か買い直しました。そうすると、2,3年前の本は500円くらいで買えてしまいます。レンタル倉庫に本をしまっておいて、取り出すときの手数料とか考えると、やっぱり手元に置いとく必要はあまりないかもしれないですね。

良い本は、いつのまにか手元に戻ってきます。だから、良い本は次の読み手に渡したくなります。

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