京大卒の主夫

京大は出たけれど、家庭に入った主夫の話

学童保育の「従うべき基準」の参酌化

学童保育の基準廃止

先日、こんなニュースがありました。

digital.asahi.com

こちらの記事、何の説明もなくて分かりづらいのですが、厚労省の出している学童保育の「従うべき基準」が「参酌(参考)すべき基準」に変更される、というものです。

そのなかの最も重要なところが、

行基準は、1教室に職員は2人以上、そのうち1人は保育士や社会福祉士などで、かつ都道府県の研修を受けた「放課後児童支援員」などと定めるとしていたものが、基準の事実上の撤廃により、一定時間の研修を受けていない職員が1人だけで対応することも可能になる

 ということです。

ちなみに「参酌すべき基準」の定義ですが、

・条例の制定に当たっては、法令の「参酌すべき基準」を十分参照し、これによることの妥当性を検討した上で判断しなければならない

・法令の「参酌すべき基準」を十分参照した結果としてであれば、地域の実情に応じて、異なる内容を定めることは許容

・「参酌する行為」を行わなかった場合は違法

というものです。(条例委任する場合の基準設定の類型

制定過程のどこかでこの基準に触れ、実情と照らし合わせたという議事録があればOKという感じでしょうか。感覚的にはかなり緩いですね。

 

これに対しては、基準を堅持するよう、全国学童保育連絡協議会などが主体となって厚労省に20万人の署名を集めた請願書を提出していました。

なぜ、今回厚労省が「参酌化」に踏み切ったのかといえば、学童の児童数が1人だろうと40人だろうと、1教室に職員2人以上という基準が一律だからです。それに対し、少子化が進み、児童数が少ないのに職員が集まらないという苦労をしている地方の知事などが反発した、というのが今回の経緯です。

なお、自民党からは、2018年6月に質の維持を求める決議が出されています。

blogos.com

一律の基準は必要なのか?

おそらく論点は「規模に応じた水準への見直し」ではないか、と思います。今回の件は、地方分権会議での地方に判断を委ねたいという趣旨のもとで行われたものです。5月の議事要旨などでは、

事実上、地域の中で子育て経験も大変豊富で、地域の子どもたちのこともよく知っていて、人望のある方がいらっしゃる場合、恐らく、昨日今日おいでになった○○士という資格保有者の方よりも、そのような方にお任せする方が安心だとおっしゃる地域の保護者の方々もいるのではないか。

高知県知事)

というやや不安になる意見や、

地域全体で放課後事業を実施している場合、実際に地域住民の声が直に地方公共団体に入るため、参酌化しても地方公共団体が危ない運営をするわけがない。

というやはり不安の残る意見も見られます。そんな人望のある人が低賃金で学童指導員やってくれますかね?というところや、民営の学童保育でほんとに地域住民の声が届くでしょうか?、など、ちょっとお花畑気味なのが怖いです。

地域自治体独自の基準については、先行して行われている県や市町村もあり、児童数に応じて人数を加配することを条例で取り決めている自治体もあります(さいたま市など)。

児童の集団の規模、あるいは都市の規模に応じた人数配置の基準をなぜ決められないのかよくわかりませんが、自治体にそれらが委ねられているのであれば、親としては自治体の動向をよく見ておく必要がありそうです。

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専門性の低下の懸念

学童の入所児童数は年々増えていますし、学童で子どもが過ごす時間はとても長いです。できれば、そのなかで過ごす時間も、よりよい時間を過ごしてほしいなあと思っていますし、そうした環境を構築できる専門性ある人材に子どもを任せたいです。

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全国学童保育連絡協議会(ぜんこくがくどうほいくれんらくきょうぎかい)より)

しかし、学童指導員の処遇も決していいものではありません。

toyokeizai.net

幼児教育無償化にともなって、保育園のニーズが増え、よりそちらでの人材不足が加速することと思われます。保育士の獲得競争の過程で、保育士給与も改善されれば、保育士資格などを持つ専門性のある指導員もそちらに流れる可能性もあり、一歩も二歩も遅れている学童の現場においては専門性のある指導員の不在、という質の低下が懸念されます。

私の住んでいる市でも、指導員のフルタイム・正社員化などの要望を保護者団体で出しているようなのですが、市のほうはかなり渋っているようです。「放課後」児童育成事業なのに、どうしてフルタイムなの?という感覚のようです。

これについては、以前フランスの学童保育について書いた記事で触れたように、日中の学校での教員補助や遊びの見守りなど、学校内への関わりを増やしていくことはできないだろうか、というのが私の意見です。

lazyplanet.hateblo.jp

べつに学童保育の「資格」 については、お花畑のような知事の発言にある子育てに詳しい地域で顔の広い人であっても信頼できる専門性があれば構わないのですが、「資格」以外で専門性を保てる保証は何かあるかなぁ、と思う次第です。