京大卒の主夫

京大は出たけれど、家庭に入った主夫の話

なぜ、賃金は上がらないのか?

あまり主夫には関係のない賃金のお話です。

景気は回復しているのに、賃金は上がらない、というのはよく聞く話ですが、実際のところどうなんでしょう?というシンプルな疑問からのエントリです。

 

相変わらず議論は散らかっていますが、なるべくデータに当たったつもりです。

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1.非正規雇用

パートタイムで働く人(≒ざっくりと非正規労働)は、年々増えています。

厚労省によると、平成 28年 10月1日現在の正社員以外の労働者割合は 37.2%、うちパートの労働者割合は27.4%となっています。(概況PDF p.5あたり)

平成28年パートタイム労働者総合実態調査の概況|厚生労働省

約4割が非正規雇用です。

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お役所PDFで見づらいですが、こんな感じで増えてます。高齢者が多いですね。

当たり前かもしれないですが、非正規雇用の賃金は低いです。

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これも厚労省の資料です。そして、パート労働の場合、どの年齢であってもほとんど賃金が変わりません。もちろん雇用年数に応じて上がることもあると思いますが、上り幅は推して知るべしです。ある意味ジョブ型のとても成果主義で、平等な制度ともいえます。

2.労働生産性

「生産性と賃金~雇用拡大と生産性のねじれ~」第一生命経済研究所 担当 熊野英生

http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/macro/2017/kuma171116ET.pdf

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それぞれの産業で、IT化、最近では学習機能を備えたAIなどによって効率化が進められています。だから、各産業とも生産性は向上しています。でも、全体としての生産性では、ほとんど上がっていません。飲食や介護といった業界の、いわゆる労働集約型のサービスがそれを押し下げているからです。

 

労働集約型のサービスは生産性が悪いにも関わらず、就業者数は、産業別で唯一増えています。高い生産性(≒儲かってる)企業からは人が減り、儲からない企業に人が集まる、という現象です。

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いわゆる人手不足業種の背後にあるものは何か?;求人意欲と、アウトプットレベル、労働生産性の関係|その他の研究・分析レポート|経済産業省

より詳しい業種別のグラフは上記の経産省レポートにあります。

本当はみんなが儲かっている企業にシフトしたほうが、給料は上がるでしょう。でも、儲かっている企業ほど効率化が進んでおり、「人」を採用するにあたっては狭き門になっています。

 

人手不足が言われる医療・介護・保育など、すべて労働集約型ですが、これらも国の公定価格がある以上、賃金上昇は簡単には見込めません。

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平成29年版厚生労働白書 −社会保障と経済成長−(本文)|厚生労働省

ちなみに、医療福祉等の分野は急速に産業人口が増加しつつあり、その影響は決して無視できるものではありません。

 

3.労働分配率

経済分析第195号 経済分析第195号(特別編集号)|内閣府 経済社会総合研究所

企業がその日々の営みで生み出した付加価値(利益)は、労働者や株主、国や社会へと配分されます。そのうちの労働への分配率を、労働分配率といいます。

一般に、好景気なときほど株主や社会への分配が大きくなるので、労働分配率は下がるといわれていますが、近年は株主重視の経営などの影響もあり、全体として労働分配率は減少傾向にあります。

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http://www.esri.go.jp/jp/archive/bun/bun195/bun195b.pdf

計算方法により複数指標(出典参照)がありますが、おおむね減少傾向。

 

労働分配率は、雇用の問題というより企業の戦略の問題です。会社を継続し発展させるために投資を労働(人)か資本(モノ)にするか、あるいは留保する(カネ)か、の経営判断です。

zuuonline.com

ボーナスをもらったら多くの人は貯金をするそうです。今の景気をボーナスと考えれば、企業も同じ傾向がある、とも言えます。

もちろんボーナスをそのまま現金で持つことはあり得ず、何らかの金融投資をしていると思います。今の景気がずっと続くはずがない、というのはみんな肌で感じているようです。予備的貯蓄をする、という行動をみんなが取り、消費を控えています。

 そうした「デフレマインド」を払拭する、というのがアベノミクスでした。

 

 

 

4.日銀政策

いわゆるアベノミクスの政策の柱ともいえる日銀の政策は、量的金融緩和によって2%物価水準を維持してデフレマインドを払拭する、ということです。

でも意味が全く分かりません。総裁本人の言葉を見てみましょう。

【講演】黒田総裁「『量的・質的金融緩和』と経済理論」(スイス・チューリッヒ大学) : 日本銀行 Bank of Japan

日銀の政策は、とにかく日銀がたくさんの債権を買う、そしてお金を発行する、ということです。それによって、長期的な金利を低くコントロールして、企業が投資に回す資金を増やします。金利が低ければ、お金は借りやすいし、預けていてもしょうがないからです。それによって株価が上がり、景気が良くなった「感じ」がします。

一般の人も黒田さんの言ってることがよくわからなくても、日銀が「何か」をしていることはわかります。ひたすら異次元の~というフレーズを使って印象付けてきたからです。株高もあって、実際に景気が良くなるかも、という期待が働きました。

そうすると、物価も上がります。たくさんの人が買い物するようになるので、需要が高まって価格も上がるからです。物価が上がれば、人の値段も上がります。つまり賃金も増えるはずです。

ところが、そういう手はずだったはずが、実際にはそうなりませんでした。物価が下落する要因が多く、いまだに物価目標を達成していないからです。

例えば、原油価格の下落です。ガソリンの値段が安くなって、物にかかるコストが少なくなり、価格を上げなくても需要を満たすことができてしまいました。あるいは、消費税の増税がありました。これもまた、消費を抑制する力が働き、結果として物の需要が高まりませんでした。

そのため株は高いし企業業績もいいけれど、日銀は政策をやめられず、今はそのことが不気味な様相を呈していて、企業も慎重にならざるを得ない、という状況が起きています。上がるはずの賃金も、モノの値段が変わらないので上がりません。

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まとめ

上記以外にもロスジェネ世代の問題や、グローバル間競争の影響など様々な要因はあります。でも、一つ一つの要因が密接に関連していると思われるものを4つ挙げました。

 

雇用は増えました。でも、その多くは非正規雇用です。高齢者の雇用も多い。非正規雇用は、賃金上昇の幅がとても少ないです。

生産性も上がっています。でも、産業人口が増加している分野は、生産性の上げにくい分野であり、そこでは賃金の上昇は見られません。

日銀の政策は功を奏して株価が上がりました。しかし、物価の上昇とともに上がるはずの賃金がそもそも物価が上がらないために目論見通り上がらず、株を持ってる人だけが得をしている状況が続いています。

 

いろんなレポートがこうした状況を伝えています。が、実際のところそういったデータ分析やレポートに当たる人はほとんどいないと思われます。仕事に忙しくて、そこまで時間がないからです。

ニュースでも、発表された短観などのあとに消費者の声などのインタビューが続き、印象論でしか語られません。

 

なんとも歯がゆい状況ですが、比較的時間のある非正規雇用の主夫からは以上です。

 

bunshun.jp

(参考)日本の賃金はなぜ上がらないかに答える(みずほ総合研究所

https://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/today/rt171026.pdf

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(参考)景気回復が賃上げにつながりにくい理由 ~「日本特有」の様々な問題 第一生命経済研究所

http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/macro/2017/naga201709011koyou2.pdf