主語は親である「私」で、絵本を手に取るのは「私の娘」です。
以下、その前提で書きます。
児童文学の『アニメ絵』論争
絵本・児童書の"萌え絵"論争については、私は子どもたちがそれに飛びつくなら、それで結構なことだと思っています(そもそも私は萌えを感じないので、以下『アニメ絵』とします)。
絵本萌え絵論争が囂しいですが、弊社の「せかいめいさくアニメえほん」は作家さんたちに「萌え絵を描いてください」とお願いしたものではなく「子ども自身が飛びつく絵を」という発注のため「なぜ萌え絵にしたのか」としきりと質問され困惑、担当者も何度説明しても理解してもらえず苦慮しています。 pic.twitter.com/KqhLzAj2vJ
— 河出書房新社 (@Kawade_shobo) 2018年11月8日
河出書房新社さんのtwitterでも「子どもが飛びつく絵」と称しているとおり、マーケティング的に徹底された絵なのだと思います。まあ、そんな「あざとい」マーケティングに乗りたくない、という気持ちは個人的には分かります。ただそれは、消費者心理の問題で、この問題の本質ではありません。
『萌え絵』を問題視している人は、それが子どもの健全な育成を脅かすものである、と真剣に思っている人は一部の過激派だけで、マクドナルドのハンバーガーのようなものでおいしいけれどそればっか食べてると体によくないよね、くらいの感覚ではないかと思います。
それは感覚的にわかる話です。でも、子どもが読む絵本は決してこのアニメ絵本だけではないので、「そればっかり食べている」という状況は私にはあまり想像できません。
いつ頃からこういう絵になったのか、とか売上・貸出部数の変遷など調べてみると面白そうなので、本当はこういうのをデイリーポータルさんあたりにやってほしいのですが、ちょっと期待外れでした。
シンデレラの絵
いまシンデレラを子どもに読ませようとしたら、アニメ絵に限らずいろんな絵のものがあります。
こちらはFFシリーズでおなじみの天野さんのイラスト。
こちらも有名なデザイナーですね。石津ちひろさんは『リサとガスパール』シリーズなどの翻訳で有名です。
- 作者: アナミルボーン,カール・ジェイムズマウントフォード,Anna Milbourne,Karl James Mountford,みたかよこ
- 出版社/メーカー: 大日本絵画
- 発売日: 2017/01/20
- メディア: 単行本
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こちらは仕掛け絵本になっています。仕掛け絵本は子どもの興味を惹きやすいです。
岩波書店からはこちら。やや古風ですが、かわいいイラストです。福本さんもまた、『おさるとジョージ』シリーズや『としょかんライオン』などの名訳者です。
そして、この河出書房新社のアニメ絵本。なにが、今までのと違うかといえば、値段ですね。381円(税抜)。上北ふたごさん(姉妹)は、『プリキュア』シリーズで有名です。
ちなみにポプラ社さんも、古めかしい絵柄のシリーズで出されていましたが、2018年3月にリニューアルされています。
(いや、あんまり変わってない?)こちらも350円とお手頃な値段設定です。
どのシンデレラを選ぶのも自由
仮にアニメ絵のものしか選択肢がないなら、絵のタッチが好みじゃないとか、そういうので少し困るかもしれませんが、 シンデレラの絵本は上記のようにたくさんあります。アニメ絵が好みじゃないなら、好みのイラストレーターのデザインした絵本を選択することができます。たくさん選択肢があるのはシンデレラに限らず、他の童話でも同様です。
選択肢がたくさんあるのはいいことです。
「せかいめいさくアニメえほん」は確かに安く、子どもがとっつきやすい簡単な造りになっています。それに比べれば、ほかの絵本は値段は高いですが、図書館でも比較的借りやすく、借りてみて子どもの反応がいいものは買うなど取捨選択して買ったり、たいていの名作絵本はリセールバリューがあるのでメルカリやヤフオクで高く売ったりできます。
そして、アニメ絵の絵本が入口であってもべつに構わないですが、少なくとも子どもが小さいうちは、どのシンデレラを選ぶかは購入者である親(私)の趣味です。
絵本は、 子どもが読むものですが、小さいうちは『読み聞かせ』をします。絵本の読み聞かせそれ自体が親子のコミュニケーションとなるので、絵本の教育効果が高いのだと思われますが、親が気に入らないものを読み聞かせても、「気に入らない」という感情を抑え込まないとそれが伝わってしまうし、感情を抑え込むのもストレスです。
絵本を与えているうちは親の趣味、そのうち自分で選ぶようになったとき、好きなように選ばせつつも『地雷』を踏まないようにそっと見守る、という程度でいいのかなと思います。地雷というのはアニメ絵の絵本ではなく、本来子どもを想定読者としていない(やや過激な)本のことです。
「私」はアニメ絵の絵本を買うか?
じゃあ、実際にお前はアニメ絵のシンデレラを買うのか、と言われればたぶん買わないです。価格が安いので、本屋で娘が見つけてこれ欲しいといえば反射的に買うかもしれませんが、わざわざ買い与えることはしません。
私はプリキュアシリーズ大好きで先日も15周年の映画を観てきましたが、かといってそれだけが好みなわけではありません。
他にももっと読んでほしい素晴らしい絵本がたくさんあるし、絵本に限らず観てほしい映画やアニメ、してほしいスポーツ、一緒にしたい遊びなどがいっぱいあります。
サブスクリプションでにぎわう昨今のコンテンツ事情は、人の時間を簡単に奪います。エンタメ・趣味の領域は、今まさに時間の奪い合いが行われています。
もちろん、どのような時間の使い方をするかは、個人の自由ですが、より魅力的なコンテンツサービスが増えるにつれて、その取捨選択が難しくなっています。
子どもと私の可処分時間でどのようにポートフォリオを組み立ててバランスよくコンテンツを摂取するかは、子育ての日々をより楽しく充実したものにするために意識したい重要なものです。
選びとる技術
選択肢は多様にあります。ただ、選ぶものが多すぎて難しい時代なのかもしれません。いろいろ選べるよ、というのはたくさん選択肢を知っている強者の論理だ、という認識は私も強く持っておきたいと思います。
これまで「選択肢を増やして選べるようにする」ことを大切にしてきた側面はあるが、「たくさん選択肢あるんだから自分で選べばイイじゃん」という考えは、強者の論理であることを最近強く認識している。「転職すればイイじゃん」「転校すればイイじゃん」「選びとる」ことはものすごく難しい。
— 野口晃菜 Akina Noguchi (@akinaln) 2018年11月10日
「選びとる」という技術を、もっと子どもにも伝えていきたいし、私もずっと学び続けたい、と思います。そして、なるべくマウンティングせず、よく知らなくて困っている人に、「選択肢」と「選びとる技術」をうまく伝えていく術を身につけたいです。