子育て世代の夫婦にとって、自分の親、子どもから見たら祖父母にあたる人と同居しているか、別居していても近くに住んでいるか、あるいは遠く離れているか、といった違いは、家事・育児・仕事のバランスとコンフリクトに大いに影響を与える要素になります。
祖父母との同居は、自分の親であっても、相手の親であっても、父母との仲の良さ、本人のコミュ力、地域性、家庭内ルールなど、諸条件によってプラスにもマイナスにもなります。
※実家で採れた野菜です。
こちら、ネット上の子育てサイトで、女性側の視点(というか愚痴や悩み等)についてはよく書かれていると思うのですが、男性には何らかの影響を与えているのでしょうか。
このお題に対して、面白いワーキングペーパーがありましたので、ご紹介。
「親の居住地からみた育児期の夫婦の関係性:『全国家庭動向調査』を用いた特別集計」
山内 昌和 ,千年 よしみ (国立社会保障・人口問題研究所) 2015年
http://www.ipss.go.jp/publication/j/WP/IPSS_WPJ13.pdf
子育て家庭の親の居住地、つまり祖父母の同居、近居(30分以内)、遠居(30分以上)の違いによって、夫婦間の役割や分担、お互いに対する期待や満足感などは変化するか、という調査です。
調査対象は、60歳未満の配偶者有りの女性で、末子が18歳までのケースです。
親の居住地が(車、電車等で)30分、というのが近いか遠いか、というそもそもの前提で結果が大きく変わりそうな調査ですが、統計的にバランスが取れるのがそこだったのだと思われます。
我が家は、一番近くて2時間半のところに親が住んでいるのですが、そんな家庭は1割程度とのことです。
調査結果は長いので、面白いところだけ抜粋します。
1.妻を助けてくれるのは誰?
こちらは、妻が働きに出る、親の介護をする、など育児に専念できなくなった場合や、急な病気や出産時に誰が、最も重要な支援提供者となるか、を比較したものです。
グラフの項目は左から、夫・親・兄弟・妻・保育園等・その他です。
質問の項目が分かりづらいのですが、祖父母遠居家庭の末子年齢が小学生以上の場合に夫の割合が多いのは、あくまで「妻が働いている時間の世話」ということになるので、土日など非正規的な働き方であると考えられます。
こちらは、とても妥当なところだと思います。保育園の存在はありがたいですね。
続いてこちら。
妻が介護(親のどちらか等)にあたる場合です。
その場合、夫が子どもの世話に従事する家庭が多いようです。その分、夫は介護には従事しないということでしょうか。また、同居・近居の場合はやはり親の助けも多いですね。
こちらは突発的(短期的な)支援が必要な場合です。
妻が病気のときは夫が子どもの面倒を見るケースで、最も高い数値は、遠居家庭での約6~7割です。
一方、出産時には、近遠に関わらず、親が支援者となるようです。遠い家庭も里帰り出産しますからね。
ちなみに、どちらのケースも妻自らが行う割合も1割程度あって、なんだか世知辛い気分になります。夫は何をしているのでしょうか。
2.親が同居すると男性は家事しない
次に、男性の家事負担と家事遂行についての結果です。
夫と妻の家事分担割合は、同居・近居・遠居のいずれの場合も、言うまでもなく妻の割合が高く、面白くないので割愛します。
こちらは、男性がどんな家事を週に1回以上しているのか、を示したグラフです。
同居していると、ゴミ出しすら、ほとんどしないというのが分かります。また、ほぼすべてのケースで、子どもの年齢が高くなると、家事をしなくなっていきます。
全体的に、同居している男性ほど、家事をしないことが分かります。
そんな夫の家事に妻は期待を寄せているのかと言えば、、
同居の場合は、ハナから期待されていません。
祖父母がいないと、はじめのうちは期待値が高いのですが、子どもの年齢が上がるにつれてその期待は薄れていくのが分かります。
それでも、子どもが小さいうちは、そんな少しの家事でもしてくれたら嬉しい、満足!と思ってもらえるようですが、いつまでもそんな純真な心ではいられないことが読み取れますね。
3.親と同居すると男性は育児をする?
育児はどうでしょうか。
一見すると、総じて高いように見えますが、いろいろ注意が必要です。「遊び相手をする」「風呂に入れる」とかなんかいいとこ取りですね。しかも質問は週に1~2回以上です。(1回したらOK!)
そんな緩い基準なので、遠近の別にかかわらず、どの数値も似たようにも感じますが、「保育園の送り迎え」「風呂に入れる」「寝かしつけ」などの項目では、「同居」が最も高くなっています。
さて、親と同居するほうが、男性は育児をするのでしょうか?
もちろん、そんな単純なことは言えません。同居が高い数値を示す項目は、それぞれが可能な時間帯に家にいることを示すもので、比較的就業時間の短い(残業の少ない)男性であるケースが考えられます。
別の質問項目で、「夕食を一緒に取る」ことが祖父母同居家庭で最も多い、という結果もあり、そのことからもその時間に家にいる、ということが分かります。
男性の就業時間や残業時間が少ないほど、育児参加の確率が高いという先行研究は多いので、そのあたりの考慮が必要かもしれません。
ちなみに、そんな夫の育児にも妻は初めは期待を寄せるものの(略
とのことです。
4.あなたのことはそれほど
最後に、妻に対する、夫の「情緒的支援」についての調査結果です。
夫は妻のことを、「心配してくれる」「評価してくれる」「分かってくれる」「感謝してくれる」「関心が無い」などの設問項目があります。
項目が多いので、表は2つだけにします。(右がYes、左がNo)
この結果、同居・遠近関係なく、子どもの年齢が高くなるにつれて、だんだん関心が薄れていくのが分かります。
たぶん、このレポートの著者も性格が悪いのだと思いますが、
”「あなたに関心がない」については、末子年齢が高くなるにつれ関心があることを意味する「あてはまらない」の割合が低くなる傾向がみられるが、最も近い親の居住地による違いはみられない。”
という結語で締めくくられています。この一文は必要だったのでしょうか。
まとめ
夫の家事・育児行動の違いとしては、
・全般的にメインの家事・育児は妻が行う
・往々にして親がいなければ夫が動く傾向にある
(但し、妻が仕方なく頼るのか、夫が仕方なく動くのか等は不明)
・親が近くにいない場合、夫に対する妻の期待が大きい
(但し、その期待はすぐに消える)
・育児については親と同居していれば夫の関わりが多い
(その場合、夫の帰りが比較的早いのでは、という検証が必要)
・育児期間が長くなるにつれ、妻の期待は薄れ、関係も希薄化する
というところでしょうか。
結果のみで、救いのある提言などは全くありませんが、祖父母の同居の有無によって、妻の期待する「家事」の質も内容も変わりますし、夫が動ける環境であるかどうかも変わります。
なので、一概に家事をしない夫が悪い、ということも言えませんが、子どもが小さいうちはまだ軌道修正が可能であり、今の状況が後々の家庭破綻を招く危険性がある、という危機感をもって臨まれるのがよろしいのではないでしょうか。
こちらからは、以上です。