京大卒の主夫

京大は出たけれど、家庭に入った主夫の話

東京五輪のボランティアはなぜ集まるのか?

東京五輪のボランティアはそのハードルの高さや無償性について度々批判されていますが、おそらく大会ボランティア8万人、東京都のボランティア3万人どちらも全て集まるのではないか、と私は見込んでいます。それがいいか悪いかの判断は、とりあえず置いておきます。

そのためタイトルでは、なぜ集まるのか?としています。

www.city-volunteer.metro.tokyo.jp

世論調査

内閣府の3年前の調査では、下記のような結果になっています。参加したい、できれば参加したいを合わせると22.7%、これは全国20歳以上男女の数字です。

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東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査 2 調査結果の概要 2 - 内閣府

 

NHKの2018年3月の世論調査では、参加したい15%、したくない83%となっています。

(2018年3月NHK世論調査東京オリンピックパラリンピックに関する世論調査』N=2459人 全国20歳以上の男女)

https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/pdf/20180607_1.pdf

 

一都三県に絞ると、下記のような結果があります。

digital.asahi.com

意外と多いようにも見えます。

スポーツボランティアとは?

『スポーツボランティア』は、ボランティアの中でも特殊な立ち位置にいます。

スポーツボランティアの定義とは、

地域におけるスポーツクラブやスポーツ団体において、報酬を目的としないで、クラブ・団体の運営や指導活動を日常的に支えたり、また、国際競技大会や地域スポーツ大会などにおいて、専門的能力や時間などを進んで提供し、大会の運営を支える人のこと

(文部省,2000)

http://www.ssf.or.jp/volunteer/tabid/625/Default.aspx

 とされています。

大きく二つの意味があり、地域活動におけるボランティアと、特別な大会におけるボランティアがあり、前者は日常性、後者は非日常性を持ったものです。

ここでは、もちろん後者のほうの定義を前提に話を進めます。

 

五輪ボランティアの意義には、国際大会の運営に携わった経験を地域に持ち帰ってそれ自体を「レガシー」としてほしい、というものも込められています。それは、イベント的に発生するボランティアから、地域の身近な問題解決としての互助組織に近いボランティアへの転換の期待と考えられます。

地域ではスポーツ少年団や体育振興会などのスポーツにまつわる自治組織が多くあります。そうした組織の人材不足の解決のためにサポーターを養成する、ということです。

日常と非日常の相互関係でいえば、今回も全国各地の自治組織にお声がかかるはずです。経験のあるボランティアほど、有用なものはないからです。

 

スポーツボランティアの醸成

現在、多くのスポーツの大会では、それぞれのイベントごとに必ずボランティア集団がなんらかの形で携わっています。笹川スポーツ財団特定非営利活動法人日本スポーツボランティアネットワーク(JSVN)が、主にその取りまとめを行っており、これは五輪ボランティアでも同じように行われることと思われます。

笹川スポーツ財団のHPでは様々なスポーツボランティアに関するレポートを読むことができますが、そのなかに、

プロスポーツを含む6割のトップスポーツチームがボランティア組織・団体を活用している。

都道府県の主催競技大会で、外部の運営スタッフを活用したのは、都道府県の競技団体で5割障害者スポーツ競技団体で7割

等の記述がみられ、ボランティアなしには運営すらままならない状況がうかがえます。

数あるボランティアの中でも「スポーツボランティア」はかなりマネジメント・体系化された特殊な形態である、ということをまず念頭におく必要があります。

 

さらには数字上表れなくとも、出場選手として、同じ部活・学校・その他の当事者として、あるいはその周縁の者としてなんらかの関わりを持っている場合、無自覚のうちにスポーツボランティアに組み込まれていることも多いのではないかと考えられています。

ボランティアの募集・受け入れ、業務マッチング、参加意欲の維持、クロージングなどこれまでさまざまな国際大会、全国規模の大会を取り仕切るなかで、培ってきたノウハウがマネジメント層には備わっています。そのようなノウハウの共有や研修も各大会の予算のなかに組み込まれ、協賛企業の協力のもとに人材育成がされています。*1

現代スポーツ評論37 特集:スポーツとボランティア

現代スポーツ評論37 特集:スポーツとボランティア

 

 マネジメントの上位層にはしっかりと予算が使われている、というのが一つのポイントです。

実際、五輪規模の10万人規模のボランティアを仕切る人材が足らず、いま必死でそうしたマネジメントの研修をしていることと思われます。

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ロンドンのケースでは、スポンサー企業の一つであるマクドナルド社が委託を受け、公募・育成がされており、公募段階で24万人の応募、最終的に7万人が参加しています。さらに、都市ボランティアとして、ロンドン市が観光ボランティアとして8千人を採用しています(応募は2万2千人)。

おおむね、その活動は評価され、称賛されるものだったようですが、それが先にみたような日常的な地域でのスポーツボランティアにつながったかと言えばそうではない、という批判も見られたようです。

五輪ボランティアで配られるもの

基本無償ではあるのですが、こちらが実質的に有償な部分となりそうです。

・「東京 2020 大会 大会ボランティア」オリジナルデザインのユニフォーム一式(シャツ、ジャケット、パンツ、キャップ、シューズ、バッグ等。アイテムによっては、複数枚を予定)
・ 活動中の飲食
・ ボランティア活動向けの保険
・ 活動期間中における滞在先から会場までの交通費相当として一定程度

(上のユニフォームがメルカリでいくらで売れるか、というのが報酬の多寡に影響しそうです)

また、大会スタッフとして運よく競技会場内で活動ができれば、当然有料であるところの入場チケットなども無料になります。長野五輪では、開会式・閉会式、一般競技のチケットが配られたようです。

もちろん、ボランティアスタッフという手前、ずっと観戦することは難しいでしょうが、ある程度の役得はあるのではないでしょうか。個人的には、ある程度観戦できるくらいの特典はあるべきだと思います。

 

下記に、信濃毎日新聞の五輪関連ニュースの一覧があります。ボランティア関連項目を時系列で見ることができます。近づくにつれ、相当混乱があったことが伺えます。 

https://www.shinmai.co.jp/feature/olympic/manage/volun1.htm

なぜ集まるのか?

「スポーツボランティア」の浸透

第一は、先に見たように、「スポーツボランティア」に関する先行事例が多く、体制としても整いつつある、という現状からです。ボランティアリーダーは、これまで多くの経験を積んできた限りなくプロに近い「ボランティア」です。また、大会があるごとにボランティアの募集があり、都心部でのそれは充足している状況です。

そうしたノウハウの蓄積から、一定数は既に見込まれているのではないかと考えられます。それゆえに参加条件を厳しめに設定されているものと推察されます。

「ハードル」の高さ

ボランティア参加の条件は厳しく、10日以上働くことができる、18歳以上など、高いハードルを掲げています。その「ハードル」は大会が近づくにつれて簡単に下げることができます。(訂正:日本国籍のみ・ではなく日本に短期滞在する在留資格があれば外国人も登録可能。半数近くは海外からの応募になるのではないでしょうか。)

ボランティアの対価

『ボランティアスタッフであること』による恩恵をさまざまに受けることができます。長野五輪では予算が増額され、宿泊費の一部補助なども出されています。加えて、タダで会場内に入ることができるという権利もあります(会場内での業務であれば)。

ユニフォームが欲しいという方もいるし、当然体験自体に価値を見出す方も多いと思います。こうした『恩恵』を労働の対価として捉える人も多いと思われます。

個人型クラファンの浸透

無報酬で10日以上東京で宿泊してボランティアとか、カネのない若者には無理、という意見が多く見られますが、Polcaなどのサービスを始め、個人が簡単に友人・知人や見知らぬ人からお金を集める方法クラウドファンディング投げ銭)がたくさんあります。発信方法と返礼次第では、それなりのお金を集めることができるように思われます。ブロガー界隈の人は率先してやってくるのではないでしょうか。

スポンサー企業の動員

長野五輪のときは、スポンサー企業をはじめ県内の企業から多数の従業員の動員がされています。ただし「ボランティア」としてではなく、出張扱いにするよう労基署からの指導が出されています。

長野労働基準局はこのほど、長野五輪の際に県内各企業が従業員をボランティアとして派遣するのは「業務命令に基づく出張」にあたるとして、長野冬季五輪組織委員会(NAOC)と企業に対し「ボランティア」が業務であることを明確にするよう指導した。

https://www.shinmai.co.jp/cgi-bin/olympic_read.pl

私企業がお金だけでなく人も提供する形ですが、この場合、給与+出張手当・宿泊交通費は企業持ちですので、個人の出費負担なく参加できます。今回も、このような形で動員あるいは忖度応援をする企業は多いのではないでしょうか。

 

まとめ

正直、スポーツボランティアのことは専門外ですが、色々調べていると、ボランティアが不足するといった要素が少ないように思われました。日常的にスポーツのサポートをしている、という人は想像以上に多いのです。

個人的には、ボランティアという名称を改め、サポーターという名の下で「宿泊費など含め一定額支払うこと」と、「五輪観戦の可能な自由時間帯を設けること」という対価を提供してほしいです。

大学生のとき音楽フェスのボランティアをしましたが、スタッフどうしシフトとタイムテーブルを見比べながらみんなが見たいものを見れるシフトを組んでいました。自分の好きなアーティストの演奏を見つつ、彼らのサポートもできる、というボランティアは、おいしいなと思いました。

それくらいの余裕や「自分のため」の時間があったほうが楽しいし、スタッフのやる気も上がるのではないかと思います。

それはボランティアなのか?という疑問は当然ありますが、正直ボランティアをやる動機としては何でもよくて、無償で行っている行為が結果として誰かの役に立っていれば、それは当事者の意図にかかわらずボランティアです。

「やりがい」搾取とは言われていますが、ボランティア経験者ほど、適度に力を抜いて搾取されないための所作を身につけているのではないかと思います。

 

同時に、過度の負担がボランティアにかからないよう、ボランティアの自由を認める雰囲気、ちょっと仕事をサボってても笑って許してくれる寛容さの醸成のほうが必要なのではないか、と思います。今のままだと、それほど訓練されていないボランティアスタッフが、対応にまごついて「おいおい、『おもてなし』できてねーじゃねえか」と罵倒されるような未来が見えます(そんな過去も実際あったようです)。

「ボランティア」は(原則としては)自発的な活動なので、個人の裁量や自由度が高いほど、その力を発揮するものです。そして、そのほうがきっと、楽しいのです。

 

 

追記 8/23

ボランティア研究に関しては、仁平さんの議論がかなり参考になるのですが、書いてくれないかなあと思っていたところ、書いてくれました。

さすが、まとまってます。

gendai.ismedia.jp

仁平さんも書いていますが、ボランティアをすることが「自分の物語」、自分のためにするという文化がもっと根付けばいいなと思います。

そしてタダでも、報酬有りでも、ブラックな労働は許されない、というのは当然の前提かと思います。ボランティアにも、適度な休憩と観戦が許されますように。

参考

・ボランティアに関する議論はこれ一冊にほぼ網羅されています。ものすごく分厚く重いです。彼は既にボランティアを終焉させてます。 

「ボランティア」の誕生と終焉 ?〈贈与のパラドックス〉の知識社会学?

「ボランティア」の誕生と終焉 -〈贈与のパラドックス〉の知識社会学

 

・一応、公式はこれでしょうか。

tokyo2020.org

・スポーツボランティアサミット2014年報告書

(国内の主要大会のボランティア数などがスライド資料にあります)

https://www.jsvn.or.jp/event/summit/asset/summit2014_report.pdf

*1:現代スポーツ評論37「スポーツとボランティア」『スポーツボランティアの過去と現在』浦久保和哉