京大卒の主夫

京大は出たけれど、家庭に入った主夫の話

「性」をタブー視する福祉社会のこと

福祉は「性」とどう向き合うか?

少し前に、乙武洋匡さんのオンラインサロンに入っていたことがあります。

例の不倫騒動のあと、手も足も出なくなった彼が手始めにやっていた活動の一つがオンラインサロンでした。

彼のオンラインサロンに入っていた理由は、面白そうなサロンなのに意外と人気が無くて価格も安かったから、です。マイノリティでありながら強い一人の男性として生きる乙武さんの個性に惹かれていたのもあります。不倫はダメですが。

実際にサロンの内容は面白く、オフ会でも直接本人やメンバーとお会いして、いろいろと交流もできました。・・・しばらくして、すぐに抜けましたが。

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えっと、で、「性」の話です。「そもそも乙武さん、どうやってするのよ?」とか「自慰はどうなの?」みたいな話もサロン内ではフランクに出ていたのですが、それはもちろん公然と話せる内容ではありません。

それらはクローズドな場所で、親しい関係性のなかでしか明かせないものである、ということは障害の有無にかかわらず変わりません。性欲の強さや性的嗜好も、障害の有無にかかわらずそれぞれで、人の内心の自由に関わるものです。

 

ただ、高齢者の介護や障害者福祉といった場面で、「性」の問題がトラブルになりやすいのもまた事実です。障害や認知症を持つ当事者が、被害を受けることもあれば、加害者になることもあります。

また、当事者が性的な快楽を求めることを、本人の意思・自己決定権として尊重すべきなのか、適切な判断ができていないと慎重になるべきなのか、性的なものを遠ざける・避けることは当事者の権利を侵害していないか、など支援者はしばしばジレンマに陥ることになります。

 

例えば、高齢者施設に住む男女のあいだで恋愛が始まった場合、職員はどうすべきか。

手足の不自由な子供が、アダルトビデオを見たいと言ったら親はどうすべきか。

車いす利用者の風俗利用は可能か。介助者は連れて行くべきか。

認知症患者が職員に対してセクハラをした場合、それを責めることはできるのか。

 

そういった「性」にまつわる問題に、福祉社会はどのように向き合うべきでしょうか? 

下記の本を参照しながら、考えてみたいと思います。

福祉は「性」とどう向き合うか:障害者・高齢者の恋愛・結婚

福祉は「性」とどう向き合うか:障害者・高齢者の恋愛・結婚

 

介護現場のセクハラ問題 

そもそも、この話題を取り上げたくなったのは、身内の被害からです。

私の妻は訪問看護師で、いまは主に在宅での高齢者看護を行っています。その訪問先の患者さんの一人にずいぶん性欲の強いおじいさんがいて、職員にストレートなセクハラ(暴力行為)をするらしいのです。

当然、その場でやめてください、と言うし、ステーションに持ち帰って対応を検討し、複数名でケアするなどの対策をケアマネージャーに提案します。ところが、50代半ばくらいの女性ケアマネは「もっと若いヘルパーさんだってそんな文句言わなかったわよ?」と跳ね返してきたそうです。

その一言に、介護現場のセクハラ問題のいろんな要素がたっぷり詰め込まれている気がしたのです。

力関係が分かりづらいかもしれませんが、在宅ケアなどの地域看護では、ヘルパー・理学療法士・看護師・医師など多職種の連携が不可欠です。ケアマネは、その監督のような立ち位置にいます。

そのケアマネは、利用者のセクハラについて報告を受けたにもかかわらず、なんの対処もしないばかりか、若い子だって我慢してるんだから(年増な)あなたも我慢しなさい、と自らもセクハラ発言をしています。よくあるセクハラの構図なのかもしれませんが、本来対策を講じるべき相手からの追い打ちは、セカンドレイプのそれと変わりありません。

結局のところ、ケアマネの手配ではなく、一人分の料金で二人体制で対応する(事業所の持ち出し)、という対策に落ち着いたようですが、とても救われた気がしません。

誰に相談すべきか?

一般的にセクハラなどのハラスメント事案が発生した場合は、労働組合や外部機関などで構成されている所定の内部通報先に連絡します。しかし、小さな事業所や中小企業などではそうした内部通報先が無いだけでなく、通報したことによる報復措置などの恐れもあります。

また、相手先企業や客からのセクハラについては上司に相談し、場合によっては契約を見直すなどの措置を取ってもらうのが筋でしょう。加害者側の企業が大口の取引先である、上司の無理解で「なかったこと」にされるなど、難しいことのほうが多いかもしれませんが。

介護の場合だと、セクハラの事実とそれへの事業者としての対応について、セクハラ加害者側の家族に伝えることになります。しかし、たとえば認知症の夫のセクハラ行為をその妻に伝える、というのはふだん介護をしている妻にとってはショックを受ける事実かもしれません。それでも、その事実を伝えるかどうか、という判断が事業者には求められます。

 

中立な立場の相談所としては、労基署のハラスメント窓口に連絡することになります。原則秘密厳守で、無料で相談できます。実効力のほどは分かりませんが、具体的に訴訟などの手続きを取る場合には、労働問題の弁護士を紹介してもらう等のほうがいいかもしれません。

www.mhlw.go.jp

独立行政法人労働政策・研修機構のHPには、訴える場合の法的根拠について比較的詳しく書かれています。

www.jil.go.jp

雇用者の所属する事業主は何らかの対策をすることが義務付けられていることが分かります。具体的にどのような措置を取るべきかについては、指針が厚労省から発表されています。

www.jil.go.jp

 また裁判例では、セクハラが被害者の人格権ないし人格的利益を侵害したと認められる場合には、行為者の不法行為民法709条)に基づく損害賠償責任を認めています。また、行為者の雇い主である企業についても、使用者責任民法715条)や職場環境配慮義務違反(民法415条、債務不履行に基づいて、損害賠償責任が認められることになります。

国の防止策も作成中

法的に正しい手続きは、いくつもあります。また、国も今年度中に、介護セクハラ対策をまとめるとしています。

mainichi.jp

これにより、契約書へのセクハラ行為があった場合のサービス終了の明示や、複数名での訪問などの指針がより強化されれば、何よりです。

しかし、セクハラを受けた本人が大きな問題にしたくない、という思いが強い場合の方が多いです。それが患者から受けた、しかも認知症のある患者や身体的な不自由のある患者となれば、なおさらなのかもしれません。正義でもって「正しい」手続きを取るべきか、患者とその家族の「感情」を配慮して見過ごすか、ケアの現場ではそうした葛藤が発生します。

上記記事にあるとおり、介護従事者の約3割がなんらかのセクハラを経験しています。高齢者への虐待防止法等はある一方で、従事者の側は守られていない実態があります。

介護福祉の「性」へのタブー視の強さ

セクハラの例だけをとっても、上記のようなセクハラを「なかったこと」にするかのような対応を取られてしまう、あるいは我慢して取らざるをえない、という状況です。

また、一方で障害のある人や高齢者の性への関心・興味に対しても、まるで「なかった」ことのようにされています。

一般社団法人ホワイトハンズなどが、当事者や家族、支援者、あるいは一般社会にむけて、障害者の性についての啓蒙をしていますが、まだまだ十分に認知されていないように思います。

healthpress.jp

障害の有無・年齢にかかわらず、「性」への興味・関心が強い人はいますし、強くなる時期があります。

障害や病気がある人の性的関心をタブー視することは、彼らを「性」に関する正しい知識を持たない情報弱者にしてしまうことになり、また福祉従事者にとっても性被害を「なかったこと」にされてしまうことになります

性的欲求が強い人も当然いる、ということを大前提に、当事者のニーズとプライバシー両面に配慮しつつ、福祉従事者を守るという難しいハンドリングが、求められます。

国のガイドラインが、そういうものになってほしいと願いつつ、もし性被害があれば毅然とした対応を取る、当事者本人のニーズには、主要なケアラーを中心に寄り添う・専門家として対策を考えるということが、一般的にできるようになるといいなと思います。

 

「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。

「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。

 

 

補足:下記の記事でも思ったのですが、当事者の性的ニーズとセクハラの話をごちゃまぜにこの話をすると、やっぱり分かりづらいな、と思いました。このエントリも分かりづらくてすみません。でも記事を分けると、根っこの部分でつながっている話がぼやけてしまったりするので、やはり扱いの難しいものなのだと改めて思いました。

synodos.jp