京大卒の主夫

京大は出たけれど、家庭に入った主夫の話

精神的な障害や病気を抱える人への公的支援・福祉サービス

精神的な障害・病気・困りごと、さまざまな「生きづらさ」を持ちながら、働くにはどうしたらいいか、というテーマについて、考えることが多くなりました。

 

そういった生きづらさを抱える人の存在が可視化されてきた、という現代的な背景もあるし、自分もそうした生きづらさを抱えることになって、同じ状況に置かれた人たちの存在が無視できなくなった、ということもあります。

僕はいま、パートの仕事をしながら主夫として家事や子育てをしていますが、鬱病で長期的な通院をしています。

公的な支援を受けなければ、その通院費と処方薬費は、年間で10万円をはるかに超えます。そのためいくつかの福祉サービスを利用しながら、日々の生活を賄っています。

障害などの困難さを抱える人が継続して安定的に暮らすには、公的・私的問わず、さまざまな社会的資源からその支援を引き出す必要があります。

そのうえで、公的支援による最低限の生活保障や援助をベースに、一定水準の生活を保つための就労を+αで行うことで、より安定した暮らしが期待できます。

週5日フルタイムの正社員という働き方は、もはや一般的ではなくなってきています。公的支援をベースに+αの就労をする、という考えに基づき、フルタイム就労に固執しなければ、困難さを抱えていても働ける可能性を探れるのではないか、と思います。

まず、ここから始めなければ、「生きづらさを抱えながら働くには」というその先のはなしに進めないので、前提となる社会的資源についてみてみたいと思います。

 

(長いので、最後だけ読みたい人は目次から読み飛ばしてください)

 

1.有職期間がある、あるいは休職する時

まずは、もともと働いていたというケースを想定します。その場合、労働保険・健康保険などさまざまな保険料を払ってきているので、受ける給付の種類も多く手厚いものとなっています。

傷病手当金

鬱などの精神的な事由に限らず、長期の休職を余儀なくされるときは、こちらの傷病手当金の給付を受けることができます。

健康保険に加入していれば、月額報酬の約6割が保障されます。健康保険は、必ず支払う義務がありますが、こうして万一働けなくなった時にその生活を保障される権利もあります。

こちらは、最大で1年6か月の保障期間があります。会社の就業規則などで1年未満しか休職できない、という場合、退職したとしても、仕事に就けない状態であれば継続給付できます。

病気やケガで会社を休んだとき | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会

・リワークプログラム

うつ病などの、精神的な病気で一度休職すると、復帰の際に元通り働けるとは限りません。多くの場合、前と同じような100%の力は出せません。そのため、復職してもまたすぐに休職してしまう、という事案が多く発生してしまいます。

そうしたとき、スムーズに復職できるよう支援するのが、このリワークプログラムです。定期的にある場所に通い、作業をし、人とコミュニケーションをとる、という社会的なリハビリを行います。

公的なところでは、独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(地域障害者センター)がこのプログラムを提供しています。ただし、ここのプログラムは本人・主治医・事業主がチームとなって取り組むことを必須としており、会社に一定の理解がなければ、受けられません。

また、通常支援期間も長く、もっと短期で戻りたいといったニーズや休職規定に会わないなどといったことも発生し、何より都心部ではかなりの予約待ち状態になっています。

www.jeed.or.jp

そのため、下記のうつ病リワーク研究会に加盟している、医療機関にて通所サービスを案内されることが多いです。この場合、私費負担が発生します。3割負担のままだとかなりの出費になるため、躊躇する人も多くいるかもしれません。

www.utsu-rework.org

自立支援医療

上記のような医療リワーク支援は毎日長時間の治療をする通院のようなもので、それを受けるには、治療費を含めかなり費用がかかります。そこで、自立支援医療制度という通院に伴う医療費や薬の処方費を軽くする制度を使うことができます。この制度を利用することで原則医療費が1割負担、月額上限10,000円で通院治療を行うことができます。

申請は各自治体の福祉課などにある自立支援申請窓口で行います。その申請書のなかに医師の診断書も必要となりますので、主治医に書いてもらいます。診断書は医師によっては高額ですが、病気は長期化するものと思って初期段階で書いてもらうことをお勧めします。こちらは遡って支援を受けることはできません。

www.mhlw.go.jp

・休業(補償)給付

うつ病などの病気の原因として、長時間労働など労務上の問題や心理的負荷との関連が明らかである場合には、労災認定を経て休業補償給付をうけることができます。

こちらは、労災保険に拠るもので、労働局・労働基準監督署に請求します。

主に、会社での就業中に起きた事故などを想定した制度のため、会社側で手続きが行われることが多く、事業主の証明も必要なため、実際には会社側が渋るケースが多いかと思われます。

ただし、長時間労働の例でいえば、

・極度の長時間労働(発病日直前の1ヶ月間におおむね160時間を超える時間外労働)を行った場合
・発病直前の2ヶ月間に1ヶ月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行い、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった場合
・発症前おおむね6ヶ月の間、恒常的長時間労働(月100時間程度となる時間外労働)がある場合

職場のメンタルヘルス|事業者のための参考指針集

などが、心理的負荷の事例として当たると厚労省が認定基準を策定しています。こうした客観的な証拠が示せるものがあれば、請求に踏み切っても良いかと思います。

会社と不毛なトラブルになることはまた大きな心理的負担となるので、法定代理人を立てることもまた有りだと思います。その場合は社労士に相談です。

労災認定までは平均8か月程度と時間がかかります。またうつ病などの場合、私的な事由なのかどうかなど曖昧なケースもあり、認定基準も厳しいとされています。

傷病手当金の申請と同時に休業給付の請求手続きも行い、傷病手当金を受けつつ、労災認定が下りた時点で休業補償給付に切り替えるのがベターかと思います。

休業補償給付では、通院にかかる費用や交通費も無料になるほか、給与保障も8割傷病手当金よりも優れた補償内容となっています。

www.mhlw.go.jp

2.無職・退職時

障害年金

年金というと退職後に受け取るイメージが強いですが、障害がある人は現役時にも受け取ることができます。

国民年金に加入している期間の病気等であれば(または未成年時の障害であれば)障害基礎年金、厚生年金に加入している期間の病気等であれば障害厚生年金を受けることができます。

なお、きちんと保険料を納付していることなどが前提となります。最寄りの年金事務所に申請書をもらい、申請します。こちらも支給決定までに半年~1年ほど時間がかかります。

また、手続きの際には、配偶者や親の収入証明や戸籍謄本、所定の診断書などが必要で、特に初診~現在の通院先が異なるケースや源泉徴収票などが手元にないケースなど、書類を作成し提出するまでにかなりの労力がかかります。窓口の対応も、場合によってはきつい言動をされることもあり、心理的負担の大きいものになります。

何より、本人や親族にとっても「障害」を認めるという過程が生じるので、申請以前に受け入れられるかどうか、ということも重要になります。

障害年金|日本年金機構

国民年金・厚生年金保険 障害認定基準|日本年金機構

精神障害者保健福祉手帳

この手帳の交付により、日常生活や社会生活上のさまざまな支援を受けることができます。具体的には、自立支援医療費給付手続きの簡素化、駐車禁止除外指定者標章の交付、交通機関の運賃の減免、就労に際しての障害者枠の利用など、自治体によっても異なりますが、多方面での支援を受けることができます。

特に、就労にあたっては、平成30年度から精神障害者も雇用義務の対象となり、雇用することで企業は納付金を払わずに済み、報奨金が受け取れるなど企業側のメリットも増すため、手帳を持っていることをオープンにした就労がしやすくなった、という面もあります。

www.mhlw.go.jp

・就労移行支援事業所サービス

リワークに近い形ですが、就労移行支援事業所で、主に無職の障害を抱える人が就職を目指すために、就労までの訓練や面接指導、インターンなどを経て就職するまでのサポートを受けることができます。

就労移行支援事業所を利用するには、行政が発行する福祉サービス受給者証が必要です。市区町村の窓口(障害福祉課等)で、障害福祉サービスの支給申請の手続きを行い、認定されれば利用可能です。近隣の就労移行支援事業を行っている企業や団体と契約します。

費用は自己負担1割ですが、月額上限が住民税非課税世帯以上、年収600万以下で9,300円、それ以上で、37,200円とまあまあかかります。

また、地域によっては若年層向けや(主に育休後の)セカンドキャリア形成のための就労支援事業を行っているところもあります。こちらは無料相談できるところが多いはずです。

works.litalico.jp

(※公的な機関のリンクをなるべく載せたいのですが、一番分かりやすいのがLITALICOだったので、こちらを載せておきます)

・住民税・健康保険・年金・保育料等の免除・減免申請

意外と見落としがちなのが、こちらです。働いていて、休職・退職となった場合、前年の所得があれば住民税は前年所得に応じた額を払う必要があります。健康保険や年金もほぼ同様です。そこで、現在所得がなく、生活が困窮しているということを市役所に証明し、減免・免除してもらう必要があります。

子育て中で、保育料などを支払っている場合なども同様です。また、保育を必要とする事由も「就労」から「傷病によるもの」へ変更する手続きも合わせて必要です。減免が認められない、認められてもまだ費用負担を感じる場合は、児童扶養手当から保育料を充当させる手続きもできます。

 

以上、網羅的ではないかもしれませんが、一旦これで締めます。

まとめ

・自発的な意志がなければ支援は受けられない

以上、長々と説明しましたが、それらすべて、自発的に申請・申し込みしない限りはどれも受けることはできません精神科医から提案され、手続きの存在を教えてくれることはあっても、一緒に窓口までついてきてはくれません。アウトリーチ(訪問などで困窮を発見してもらうこと)を期待できるほどの社会資源は現状ありません。

 

私の場合、鬱がこんなに長く付き合うものという自覚がなかったため、そんなに医療費も使わないだろうと自立支援医療も初めの1年ほど受けていませんでした。また、すぐに復職したいと思っていたので、数か月かかるリワークもあきらめて、人材会社を使って正社員で再就職しました。

結果、健康保険も切り替わるので傷病手当金も6か月しかもらえず、再就職しても鬱がひどくなりすぐに辞めることになって、その後の生活がかなり苦しくなりました。

失業手当の給付も自己都合退職のため半年先で、障害年金の認定(3級)も1年以上かかりました。住民税などの減免申請のことも知らなかったので、気づいた時には既に払い終わっていました。

今も通院し短時間就労しながら障害年金も受け取っていますが、ようやく比較的安定した生活が送れるようになるまでに4年近くかかっています。

 

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・ケアとしての就労支援

まず、障害や病気を抱えている人の優先順位はそれらを治すこと、治らないものであれば、日常生活のなかでうまく付き合う方法を見つけること、が第一だと思います。

病気やケガのときには無理に働くよりしっかり休養を取るべきだ、という一般論です。

ただし、その状態が長期化する場合においては、現実的な話として、経済的な面でも精神的な面でも「就労すること」が重要になります。

家族に依拠したり、最終手段として生活保護を受給するなどで、就労しないで生き残ることもできますが、「自立できない辛さ」・「社会や身近な人に迷惑をかけてる気がする感」といった負の感情が、もともとの障害や病気に加わり、生きづらさが雪だるまのように膨れ上がることになります。

就労の副作用として、精神的な安定や環境の改善が認められるなら、「就労」の前後含め、それにまつわるすべての支援は障害や病気のケアや治療につながります

「就労」はケアである、という前提にたって、それではどんな仕事に就けるのか、より悪化することなく、精神的にも安定できる負担のない働き方とは何か、そのために周囲ができること、本人ができることは何か、といったことを今後考察します。