大学無償化に関する、専門家会議が進んでいます。
今年中には骨子がまとまる予定ですが、子育て世代にとっては家の次に高い買い物といわれる大学進学費のゆくえは気になるところです。
大学無償化は「出世払い方式」
まず、初めに断っておきたいのが、現行の自民党案の「大学無償化」は、「出世払い方式」であり、厳密にいえば無償ではありません。
年収が1100万円未満の世帯の子どもを対象に、授業料として、国公立大学の場合は年間54万円を、私立大学の場合は70万円、もしくは88万円をいずれも無利子で貸与し、卒業後、毎月、課税所得の9%を返還してもらうなどとしています。
在学中は費用は発生しませんが、所得の9%を返済に充てる、という案のようです。
また、住民税非課税世帯に対しては「出世払い方式」ではなく、減免措置(国立大は全額免除・私大は平均授業料を勘案し、一定額)が検討されています。
仮に、上記の設定がそのまま適用されるとすれば、私立大学を4年で卒業した場合、最大で88万円×4=3,520,000円を返していくことになります。
すごくざっくりと、初任給160,000円、ベースアップ5,000円、5年ごとに職能給20,000円と計算してみても返済までに15年かかります。
月給 | 月額返済済額 | 年間返済額 | 累計返済額 | |
1年目 | 160,000 | 14,400 | 172,800 | 172,800 |
2年目 | 165,000 | 14,850 | 178,200 | 351,000 |
3年目 | 170,000 | 15,300 | 183,600 | 534,600 |
4年目 | 175,000 | 15,750 | 189,000 | 723,600 |
5年目 | 200,000 | 18,000 | 216,000 | 939,600 |
6年目 | 205,000 | 18,450 | 221,400 | 1,161,000 |
7年目 | 210,000 | 18,900 | 226,800 | 1,387,800 |
8年目 | 215,000 | 19,350 | 232,200 | 1,620,000 |
9年目 | 220,000 | 19,800 | 237,600 | 1,857,600 |
10年目 | 245,000 | 22,050 | 264,600 | 2,122,200 |
11年目 | 250,000 | 22,500 | 270,000 | 2,392,200 |
12年目 | 255,000 | 22,950 | 275,400 | 2,667,600 |
13年目 | 260,000 | 23,400 | 280,800 | 2,948,400 |
14年目 | 265,000 | 23,850 | 286,200 | 3,234,600 |
15年目 | 290,000 | 26,100 | 313,200 | 3,547,800 |
途中、出産育児などで収入が減る、転職のために一時的に無給になるなどのことがあれば、返済期間はさらに長くなります。
これに加えて貸与型の奨学金などを受ければ、さらに返済額は多くなります。
それでいて、子どもが生まれれば今度は子どもの教育費が・・・、となりなかなか世知辛いですね。
この「出世払い方式」、本当に良いものなんでしょうか。今までの無利子奨学金と何が違うの?という疑問が当然沸いてきます。
大学の費用は誰が払うのか?
私自身も、いまだに奨学金を返しています。無利子奨学金を月額51,000円で借りていたので、4年間で2,448,000円です。未だにじっくり返済中です。我が家の場合、妻が有利子の奨学金を借りていたので、そちらを優先的に返済しています。
無利子の奨学金を借りるには、一定以上の成績でないと無理、という要件がありますが、わりと大学生活適当に過ごしていてもまぁ大丈夫でした。
大学にいた頃は、当たり前のように学費も生活費も親に頼りきりだったのですが、そもそも大学の費用は親が払わなければいけないんでしょうか。
もし、大学の学費がタダであれば、親は子の学費を負担することなく、生活の扶養だけで十分になります。また、18歳という年齢に限らず、学びなおしやキャリアアップを目的とした就学も可能になり、学ぶ機会が広がり、学生の多様化は学生どうしの学ぶ意欲も高めます。
何より、大学までの期間の教育費用を親が負担することは、親への依存度を高めます。それは自分自身が未熟であるときはプラスの効果がありますが、親が衰弱し始めたとき、今度は親が子どもに依存する効果も高めてしまいます。大学まで行かせてやったんだから、親の面倒ぐらい見ろよ、というやつです。
つまり、親子間での扶助が社会的な前提となっているため、親の介護の責任を子どもが重く負うことになってしまうのではないか、という仮説が成り立ちます。これは、介護の社会化を妨げるもので、あまり好ましくありませんし、介護段階においても格差を生じさせるものです。また、老後資金が子の大学進学費用で目減りすることもまた事実かと思います。
このあたりの議論は、大岡頼光『教育を家族だけに任せない』がうまくまとめています。
この本では、主にスウェーデンの事例を取り上げ、大学生をそもそも親から独立した「成人」とみなした奨学金制度の確立の事例を紹介しています。
スウェーデンでは、大学の学費は無料ですが、加えて返還義務を伴う奨学金が充実しており、それらは本人の経済状況のみから判断されます。
また奨学金の金額も多く、生活費として親から独立して生計を立てることが十分可能となっています。
学生個人と学費を結びつける仕組み
日本において、現在検討されている学生ローン制度は、オーストラリアのHECSと呼ばれる制度をモデルにしています。
HECS を利用できる学生は、まず自分自身の納税者番号(マイナンバー)を税務署に申告します。在学中は、その学生の教育費用は政府により肩代わりされます。
学生は卒業後、一定程度以上の年間所得を得るようになった時に初めて年間所得のうちの数%を「学生貢献分」として政府に返済する義務を負います。
この時、HECS 利用申請時に税務署に申告した納税者番号に基づき、年収のうちから返済相当額が差し引かれます。
(「諸外国における奨学制度に関する調査研究及び奨学金事業の社会的効果に関する調査研究」報告書:文部科学省)
HECS制度においては、大学入学時の機会費用は発生しません。
現行の奨学金制度は入学金・授業料などを支払った後に支給されるものですが、その場合一時的にも親が肩代わりする必要が出てきます。
返済が就職後から始まる点は、あまり現行のものと変わりませんが、本人所得に連動させることによって、本人にその義務を負わせることになります。(現行の奨学金は、実質的に親が審査を受け、お金を借りて返す制度となっています)
学生個人と学費を直接結び付ける、という点において、この制度であれば実質的に親が払うのではなく本人が大学の学費を払う、ということになります。
親の負担はなくなるのか?
とすれば、所得連動型学生ローン制度(大学無償化)が施行されれば、親の負担は無くなるのでしょうか?
そんなに、甘くねえよ、と現実を突きつけるのが次の表です。
下宿・アパート暮らしをする大学生の生活費・支出を表したものです。
区分 | 下宿、アパート、その他 | |||
国 立 | 私 立 | 平 均 | ||
支出 | 授業料 | 503,100 | 1,115,900 | 883,500 |
その他の学校納付金 | 8,000 | 182,500 | 116,700 | |
修学費 | 49,800 | 47,800 | 48,000 | |
課外活動費 | 52,300 | 35,100 | 39,700 | |
通学費 | 10,000 | 21,900 | 18,000 | |
小計(学費) | 623,200 | 1,403,200 | 1,105,900 | |
食費 | 295,400 | 269,000 | 276,000 | |
住居・光熱費 | 492,900 | 455,500 | 466,000 | |
保健衛生費 | 34,100 | 38,100 | 36,800 | |
娯楽・し好費 | 141,100 | 156,800 | 151,100 | |
その他の日常費 | 156,800 | 169,900 | 165,200 | |
小計(生活費) |
1,120,300 | 1,089,300 | 1,095,100 | |
計 | 1,743,500 | 2,492,500 | 2,201,000 |
(※学生生活に関する各種調査 - JASSOより)
生活費だけで約100万円かかりますね。。
今後、18歳成人が適用されるかと思いますが、成人の大学生に関しては子の扶養義務があるという判例もあるようで、やはり生活援助のための仕送りは必須なのかと思われます。
ただ、よく言われるような、子ども一人につき2000万円かかる、みたいなのは多少軽減されるのではないか、と思われます。
それでは、こうしたツケ払い制度は、教育格差を是正し、貧しい世帯の大学進学を促す効果があるのでしょうか。
そろそろ、長くなってきたので、ここで一旦区切りますが、オーストラリアの調査によるとその効果はあまりみられないとのことでした。
その理由は、次回にします。