10年間で5分
(JTB総合研究所 2017年12月12日記事より)
タイトルと、見出しでお分かりだと思いますが、この10年で短縮された1日当たりの家事の時間が5分である、というのがこの数字です。
(2006年データはSTATデータベースより抽出)
ここでは15歳以上としていますが(※根拠数字を探すのに苦労しました)、統計の取り方次第でまた若干時間は変わるのですが、一日5分と聞くとそれほど短縮されていないように思いますし、何千万人という人の365日の総家事時間を考えると、かなり短縮されているのかもしれません。
そもそも、総数の数字は平均時間ですが、男性+女性=家庭内の数値、というほうが自然な気もします。
また、2006年時点でもすでにかなりの家事は最新家電によって短縮されている、と言えるかもしれません。
一方で、家事の時短に関する話題は事欠きません。多くの時短本が出版されていたり、
新製品も次々と開発されています。
なぜ、家事の時間は短縮されないのでしょうか?
労働時間は短縮されたのか?
そもそも、家事以外の仕事、オフィスワークの労働時間は減少したのでしょうか?
特に、ここ数年で電通の過労死自殺の件も含め、長時間労働の問題が再び注視され始め、『働き方改革』は企業の喫緊の課題となっています。
また、当然のことながら、様々なマネジメントシステムや、クラウド、電子申請など、業務を効率化するための技術は進んでいます。それらは、作業的な業務から労働者を解放し、判断業務などのより高度な業務に集中させ、また労働時間を短縮させるものでもあります。
労働時間に関する統計はいくらでもあろうかと思いますが、正規・非正規雇用や人員数、景気の変動などさまざまな要因から、なかなか一般統計では把握しづらいので、リクルート研究所が直近で行った調査結果を見てみます。
『働き方改革』の推進に関する実態調査 2017 | 人材・組織開発の最新記事(コラム・調査など) | リクルートマネジメントソリューションズ
こちらは、実際に働き方改革を進めている企業の人事担当向けに行ったアンケートの結果で、161社の有効回答を得ています。
働き方改革の成果として長時間労働者・労働時間の減少を感じている企業は4割程度、と対策をおこなっていても、実態としては改革は進んでいる、とは言い難い状況のようです。
ちょっと長い表で見づらいのですが、なぜ働き方改革が進まないのか?リクルート研究所では、その課題をうまく分類しています。
割合が多いものを挙げると「現場や他部署との連携が難しい」や「社外を含めた商習慣を変える難しさ」等、自分や自分の身の回りだけで解決できない課題が見られます。
このあたり、家事の時短にも通づるところがあるかもしれません。自治会やPTA、義父母との付き合いなど、自分だけではどうにもならない阻害要因はあると思います。
また夫婦間でも共通認識が必要かもしれません。「ホットクックによるスマートクッキングを導入するぞ!」と夫が宣言しても、「やっぱり季節のものはほしいよね」と妻が季節ごとに手の込んだ料理を作っていては家事時間は減りません。
「従業員間の不公平感への懸念・反発」という項目もあります。「食洗機やホットクックに任せてお前ばっかり楽しやがって・・!」みたいな感じでしょうか?あるいは義父母世代との家事の進め方等のコンフリクトはよくあるかもしれません。
そのほか、目的や優先順位が不明確、予算や権限不足、自分の仕事がなくなるかもという懸念、など家事に当てはめてみて考えると、なかなか面白いです。
なぜ家事の時間は短縮されないのか?という問いに対する答えのヒントが見えてくるように思います。
なぜ家事時間を短縮するのか?
そもそも、なぜ家事時間を短縮するのでしょうか?
これも、長時間労働にその理の一つを見出すことができます。
下記のリンクは独立行政法人経済産業研究所の行った『労働時間が生活満足度に及ぼす影響』の調査結果です。
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/17j073.pdf
途中の細かい分析は端折って、結論だけ読みますと、
全サンプルにおいては所得の影響を含めた総合効果においても、非金銭的効果においても労働時間が 10 時間半を超えたところから急激に生活満足度が低下することが見出されている。
男性サンプルに限った場合にも同様の傾向が見出されている。
他方で、女性に関しては 6 から 7 時間程度で生活満足度が平均以下となり、その後も徐々に生活満足度が低下していく傾向が見出されている。
とあります。*1
女性に関しては、労働時間は7時間程度でも、その前後の家事労働が平均で150分ありますので、9時間半程度と、体力差やジェンダーを考慮すると妥当なところなのかと思います。
長時間労働は、生活満足度に負の影響をもたらします。
だから、会社の仕事も家の仕事も、長時間やらないほうがいいです。もちろん一時的に負荷がかかるイベントは双方あると思います。決算時期に忙しいのと同様に確定申告は大変ですし、オフィス移転が大変なのと同様にマンション購入や引っ越しは大変です。
このレポートは大変出来が良く、次のようにも述べています。
男性女性にかかわらず、長時間労働が是正されることは配偶者が早く帰宅することに他ならず、家庭を支えるサポーターを得ることに他ならない。
家庭を支えるサポーターが増えていくならば、現在のような女性の状況や共働きの労働者の状況は改善されていくと考えられる。
健康面はもちろん、家庭生活を含めた生活全体の満足度にも長時間労働の問題は大きく影響します。
一方で労働時間が減らすことによって起きる様々な軋轢があることも分かります。
10年間で得られたわずか5分の短縮時間も、さまざまな阻害要因と戦ってようやく勝ち取ってきた結果なのだと思います。
日本人の家事慣行は見直されるべき、といった記事をたまに見かけますが、日本の労働慣行もまたそう言われ続けていながらなかなか変われないのと同様に、すぐには変われるものではありません。
時短テクニック的なものは、比較的共有しやすく情報もたくさん溢れている時代ですので、ノウハウが手に入らないことは無いと思います。
そういったものを取り入れる際には、時短テク導入時のコンフリクトを想定しつつ、うまく風土として定着させていきたいですね、というところです。
*1:生活満足度は「あなたは今の生活にどの程度満足していますか?」という問いで計測、平均値は1~5段階で3