早く結婚したほうが安心なのか、よく見極めず結婚するのは危険なのか、どちらでしょうか。
共働き家庭が一般的になったことで、結婚することで収入面の安定が得られ、支出も家計を一つにすることで抑えることも可能です。収入の少ない若い人にとって、金銭面でまず、結婚は人生のリスクをカバーしてくれる保険として機能しそうです。
一方で、不倫騒動が賑わしい昨今、不倫・離婚に伴う社会的信頼を損なうリスクもありますし、結婚してから相手の本性を知りそれによって結婚後の生活満足度が著しく低下するといったこともあり得ます。これらは十分な交際期間を持つことなく早婚することのリスクです。
それでは、普段からリスク回避的な人は、実際に早く結婚するのでしょうか。それとも遅く結婚するのでしょうか。
内閣府の経済社会総合研究所のなかで、ど直球にこの問題を研究した論稿があったので紹介します。
危険回避的な人ほど早く結婚するのか、それとも遅く結婚するのか(PDF)
結論から述べると、リスクを嫌う人のほうが早く結婚するそうです。
また、40代、50代の有配偶者率も高く、最終的には結婚している人が多いとのこと。
もちろん、恋愛の延長上に結婚があると考えられることが多い、今の日本では、リスクとリターンで単純に語られるものではないですが、そうした前提の上で、こうした経済学的な観点から結婚行動を分析している面白い論文でした。
以下、もう少し内容を詳しく見ていきます。
結婚のリスク回避的な機能
なぜ、リスク回避的な人ほど早く結婚するのでしょうか。先行研究等からも2点を指摘しています。
理由の一つは、「相手探しのコストを嫌う」ためです。
もう一つの理由は、「結婚の保険機能」です。
どちらも納得がいくものだと思います。
より良い相手を求めて探している期間が長ければ長いほど、時間的にも金銭的にもコストがかかり、しかもタイミングを逃してしまえば結果的に要求水準を下げざるを得なくなります。
また、保険的な機能としては、結婚することで所得が安定し(共働きあるいは相手の収入次第で)、お互いの病気・事故・介護といったリスクにも対応しやすくなります。
反駁として、結婚はそもそも幸せになるかどうか分からない不確実な行動で危険そのものじゃないか、というものがあります。
だからこそ、リスクを回避する人は、事前のリサーチや選定に十分な時間と費用をかけるため、結婚は遅くなるのでは、という指摘です。
この反駁については、この研究ではあまり詳しく論じられていないですが、有意な結果は得られなかったようです。
リスク回避的な傾向を図る質問が、「降水確率による傘の持ち出しの有無」で判断している点がやや気になりますが、経済学的な統計結果では上記のようになるようです。
その他の要因について
しかし、もちろん結婚するかどうか、を危機回避的な視点だけで見るのは不可能で、相手の収入・学歴などの要素も十分に加味されるところだと思います。
男性の場合、高学歴であるほど、若年齢であるほど、正規雇用であるほど、早く結婚する傾向が見られます。
一方、女性では、学歴や就業形態での有意な相関はなく、年齢のみ関係するようです。年齢が高くなるほど、結婚のタイミングを失う、という傾向が見られた、とのことです。
論文に対する疑問
単純に経済学的な選好行動だけで結論を出すのはもちろん不可能です。結婚についての価値観、考え方によっても結果は大きく変わるでしょう。
結婚をリスクと捉えるかどうか、まずその議論自体が大きく抜けているようにも思いますが、リスク回避的な人ほど早く結婚する、という結果からは、リスク回避的な人は少なくとも晩婚がリスクであると捉えている、あるいは結婚にリスク低減の効果を期待していることが分かります。
結婚のリスク低減の効果としては、次の三つが挙げられそうです。
- 収入の安定化・支出の抑制
- 分業による生活の質向上
- 精神的な安らぎ・ストレスの低減
家計を一にすることで、食費・家賃・光熱費など固定費は各々で支払うよりも少なくなります。共働きであれば、家計収入は倍増しますし、片働きであっても、家庭と会社での分業体制により集中的に仕事ができます。
こうした分業は、お互いに得意な分野で働くことができるというメリットもありますし、お互いの得意分野を習得することで高めあうことも可能です。家事の苦手な男性は、美味しい料理を作ってくれるだけでも生活の質は向上するでしょう。ぜひ、教えてもらって自分で作れるようにもなってほしいものです。
また、恋愛感情から始まったものであれば、好きな相手と一緒にいられるという安心感、家族として信頼して相談できる、ということで仕事で嫌なことがあっても話すことでストレスの低減にもなるでしょう。
ただ、これらの効果を得るために、そもそも結婚自体を成功させる必要があります。これらの結婚の効用は、全て結婚が上手くいっていることが前提になります。
結婚のリスク問題は、ここが難しいところなのでしょう。
結婚後のリスク回避行動
そうすると、結婚後のリスク回避行動について、より詳しく見てみる必要がありそうです。
リスク回避的な人は、長く結婚生活を続けるのか?
4,50代の優配偶者率が高いという今回の結果からは、長く結婚生活が続いたことによるものである、ということは一つ言えそうですが、これだけでは明確な判断は難しそうです。
予想としてはリスク回避的な人ほど、結婚に伴うトラブルにうまく対処し、その効用を最大化するために、結婚生活も長く続きそうですが、最初の選択時に失敗したと自覚した(効用が得られないと判断した)ときに、「損切り」が早いという可能性もあります。
「50%の確率で100万円か0円かもらえる」
「100%の確率で50万円もらえる」
あなたはどちらを選択しますか?
といった質問であれば、リスク回避的な人は後者を選択するでしょう。
一方で、
「50%の確率で100万円か0円の損失が生じる」
「100%の確率で50万円損する」
といった二つの選択肢では、どちらを選択するでしょうか。
「損切り」においては、リスク回避的な思考を持っていても一瞬後者を選択することに躊躇う人もいるかもしれません。
私はふだん株とかやらないので、なかなかこういう思考をする機会はないのですが、普段から慣れている人であれば、離婚においても適切なタイミングの「見極め」が上手いことが予想されます。
離婚すること自体は、悪いことでもなんでもなく、むしろそれで収入・支出の不安がなくなる、生活の質が向上する、精神的な安らぎを得られる(全て結婚の効用と一緒ですね)、のであれば離婚すべきだと思います。
離婚によって得られる効用が同じなら、離婚のタイミングについても、同様にリスク回避的な思考が関係してくるのではないでしょうか。
結婚について学ぶ機会
こうした結婚に関するリスク(リスクに限りませんが)などを学ぶ機会って意外と少ないように思います。
義務教育上で、どのように教えられるかは自分の経験でも覚えていないし、統計的なことや少子化問題などについて学ぶ機会があっても、「人はなぜ結婚するのか」と行ったこと自体を分析して学ぶ機会はなかなか無いように思います。
重要なのはより科学的に、分析されたものを学ぶということだと思います。価値観や個人的な思いなどはいくらでも話す機会はあるでしょう。
幼児教育の重要性も、ようやく科学的な、経済学的な視点で語られることが多くなりましたが、それまではそれぞれの個人的な事例や経験、価値観で語られることが多かったのでは、と思います。
結婚行動の分析もそれと同様に捉え、その結果を周知していくことがされないまま、少子化対策としてのさまざまな施策が取られているようにも思います。
もし、この論稿のとおり、危機回避的な人ほど早く結婚する、のであれば、危機回避的な思考を身に着けさせるのも一つの手かもしれません。
なんか、結婚を推奨しているような内容になってしまいましたが、そもそも結婚したくない、今の結婚制度に疑問がある、という人も当然多くいるし、その意見もすごく分かります。
私も今の結婚制度は姓や戸籍、離婚時の親権の問題等、不自由なことが多すぎて良くないなと思います。フランスのパックス法みたいなのができればいいですが、今の日本の現政権ではどう転んでも不可能です。
であれば、現行の制度で少子化・未婚化を回避する方法を考えざるをえないわけで、「危機回避的な思考が早婚につながる」のであれば、何か解決策に使えないかな、と思った次第でした。
人口学への招待―少子・高齢化はどこまで解明されたか (中公新書)
- 作者: 河野稠果
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2007/08
- メディア: 新書
- 購入: 6人 クリック: 127回
- この商品を含むブログ (34件) を見る