私にとって、大いに影響を与えてくれた本であっても、他人には何の役にも立たない紙の塊だったりする。
誰かが作ったオススメ本のリストを見るたびにそう思います。
例えば、こんなのです。(※個人的には好きな記事です)
じゃあ、なんで皆オススメ本をまとめたくなり、またそれらが人気なのかといえば、その本たちが、その人のことを表しているからです。
(※アフィリエイトのキラーコンテンツとしての機能はここでは無視します)
こんなことを言うのはたぶん内田樹だったと思う、「その人の本棚を見れば、その人の頭の中が分かる」と。
その本棚から、さらに厳選したリストなのだから、それはもうこれが私です、と言って差し支えないものですね。
ということで、自己紹介を兼ねて、私の人生に影響を与えた本たちを10冊紹介します。
もし、このなかであなたの人生にも少なからず影響を与えた本があれば、あなたと私はどこか似ているところがあるのかもしれません。
(※京都Lenにて撮影 いいとこです)
1.ゆっくりとさよならをとなえる
川上弘美の本は、殆ど読んでいます。独特の文章の間が好きで、高校生くらいからこんな風に文章を書きたい、と思いながらいつまでも書けずにいます。
魅力あるダメ男を描き続けている川上さんだけど、確実にそのダメ男に近づいている自分がいることを最近自覚しています。
彼女のどの本も何度も読み返しているけれど、疲れたとき、迷ったとき、病んでいるとき、カバンに忍ばせて電車で読んでいるのはいつも、この本です。
落ち着いた佇まいの文体で、てらいなく書かれたエッセイ。ひとつひとつの丁寧な表現が、日常のなかにある些細な喜びを掬い取ってくれている。何か、特別な言葉が書いてあるわけではなく、ただ読んでいるだけで心が落ち着く一冊なのです。
2.旅をする木
バックパッカーのあいだでは、まるで聖書のように扱われるほど、絶大な人気を誇る星野道夫さんのこの本。アラスカにわたり現地の人と交流しながら写真を撮り続けた星野さん。彼の文体はただただ、優しい。その優しさに、本当に何度も救われています。
疲れたときは必ず次の一節を思い返します。
結果が、最初の思惑通りにならなくても、そこで過ごした時間は確実に存在する。そして最後に意味をもつのは、結果ではなく、過ごしてしまった、かけがえのないその時間である。(中略)
何も生み出すことのない、ただ流れてゆく時を、大切にしたい。あわただしい、人間の日々の営みと並行して、もうひとつの時間が流れていることを、いつも心のどこかで感じていたい。(p.231)
3.カタツムリが食べる音
これは、鬱になってずっと布団にもぐっていたときに出会った、比較的新しい本です。
難病にかかり、ほとんど動けなくなった著者が、ベッドサイドで飼っていたカタツムリを観察します。人の生活のスピードについていくことができなくなった著者にとって、カタツムリは自分と同じゆっくりとした時間の中に生きる、同士でした。
カタツムリの世界が身近になるのと反比例して、人間の世界はしだいに縁遠くなった。わたしと同類の人間たちの体はあまりに大きく、その行動はあまりにせわしなく、唐突だった。(p.48)
そんなカタツムリのことを観察し、調べ、淡々と綴っていく著者。
学術的な意義ももちろんない、観察記だけど、カタツムリと同じリズムとスピードで生活する著者の文体が、病んだ人の心にもちょうどよく流れてきます。
ただカタツムリが這った後を眺めるように、その淡々と綴られた文章を追っていくだけで、この本は十分面白いのです。
4.都市を飼い慣らす
大学時代の恩師の本。
不出来な学生だったけど、とてもかわいがってくれた先生でした。非常にコミュニケーションに優れた物腰柔らかい研究者で、無知な学生に、鋭く的確にその知を分け与えてくれました。
『都市を飼い慣らす』はアフリカの村落でのフィールドワークがもとになっています。
都市の周縁で暮らす彼らは、ときに都市へと出稼ぎに出る。一般的な「中央と周縁」という文脈で語られれば、それは周縁の労働力の搾取であるが、彼らの生活にそうした見地は何の意味も持たない。彼らは、都市を利用し、都市で狩猟をし、都市を飼っているのだ。搾取された労働力、というかわいそうな存在ではなく、リアルな「生活者」としての彼らはもっとずっと逞しく生き生きとその日々を楽しんでいる。
先生は、このように相対化された視点で見ることを徹底して教えてくれました。労働、地域、格差、マイノリティ、ジェンダー、どんな問題を考えるときでも、必ず念頭に置くようにしています。
4.パサージュ論
人の、なんでもない日常や風景を切り取った断片を見るのが好きだ。
パサージュ論は、ベンヤミンが当時、街を歩き、書物を読み、それらを切り取っていったものをまとめた膨大なコレクション集。これが、本当に面白い。
大きな歴史の流れや、後々まで語られる大きな物語では掬い取ることのできない、小さな日常の暮らしを読み取っていくことで、それまで語られてきたこととの違いや当事者視点での歴史的な意義が見えてくることがある。ライフヒストリー研究はその代表かもしれないが、それに限らずこうした些細な情報を収集し組み立てることのできる面白さは、全ての文化研究に通じるものがあります。
5.文明化の過程
文明化の過程〈上〉ヨーロッパ上流階層の風俗の変遷 (叢書・ウニベルシタス)
- 作者: ノルベルトエリアス,Norbert Elias,赤井慧爾,中村元保,吉田正勝
- 出版社/メーカー: 法政大学出版局
- 発売日: 2010/10
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社会学を学んだ人間として、好きな社会学者を挙げてくれ、と言われたら、たぶんこの人を挙げます。
太い本で、論点は多岐にわたりますので、代表的な紹介だけ。
彼は西洋の文明化を捉えるうえで上流階級のテーブルマナーや作法の変遷に着目し、徐々にマナーが厳しくなるにつれて、暴力性が排除され(ナイフを体に向けない、丸焼きの鶏は裏で切られて皿に盛られる等)消えていく(文明化)過程を捉え、その自己抑制と暴力性の転換を論じています。
暴力は消えたのではなく、文明の中に内包されているからこそ、階級間の闘争が起きたり、戦争が繰り返されてしまう。第二次大戦中に書かれたこの著書は、「暴力性」をマクロにもミクロにも捉えようとしています。広くは国家(中央)に集中した権力にその暴力性が見られますが、日常の中にも見えない暴力が存在し、それが表面化したとき普段私たちが意識していない文明人としてのやや傲慢な自意識が現れます。
以前、ウサギを狩って炎上した女性がいたけれど(今も糸島で元気そうですが)、そのときこのエリアスの論が思い浮かびました。途端に暴力性を見せられたときの反応、上品さと引き換えに失ったもののこと等、いろいろと考えるべきことが現代においてもたくさんあります。
6.楢山節考
深沢七郎が好きなのは、川上弘美の影響から。この楢山節考は、端的に姨捨山の話です。
婆さんには捨てられる覚悟はできている。気丈で、しっかりした婆さんだ。ダメなのはその息子のひ弱さだ。それでも婆さんを背負って山に登らなければならない息子に焦点をあてて、その苦悩を描いている。
「弱さ」は人の物語において最も重要なものです。その弱さによって、感情が揺れ動き、読む人は共感し、感動が与えられる。人の心の弱さは、今も昔も変わらないから、昔の名作は今も名作なのだと思います。
50年前に書かれた創作小説とはいえ、実際にあった因習がもとになっているものと思われます。そして、決して古いおとぎ話とも言い切れなくなった現代の介護事情をどうしても思わざるをえない小説です。
様々な人の感情が入り混じる家族・介護・福祉といった問題。単純に筋道通った正論だけでは解決しきれない問題をとらえるとき、こうした人の弱さと強さを知り、寄り添うことが実学的には何に役にも立たない文学の存在意義だと思っています。
7.モモ
- 作者: ミヒャエル・エンデ,大島かおり
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2005/06/16
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この本をこういうリストに挙げると「女子か」と言われてしまう。まあ、女子で構わないです。
本を読まない幼少期をすごしたので、読んだのは大学生になってから。自分の中での「なんとなく働きたくない」感情はここでしっかりと培われています。あれは、時間どろぼうだ。会社にいたあいつらは、きっと灰色の…(略)
ここまでの記述で、そりゃこいつ主夫にもなるわな、と思ったあなたはたぶん、正しいです。
8.僕は勉強ができない
今さら山田詠美か、と思うかもしれませんが、思春期まっさかりの中学生の頃に読んだ本です。おかげで、見事にこじらせましたよ。
文学少年的には、ひねくれた環境の中で育つ、ひねくれた主人公に心惹かれたのは間違いありません。
そうして勉強はできたけど、仕事は好きになれませんでした。
こうやって自分のルーツを遡っていると、このあたりに根源的なものがありそうですね。
9.ノルウェイの森
出た、村上春樹と、嫌いな方はそっ閉しても構いません。これも中学生のときに影響を受けた本の一つだから、仕方がありません。
村上春樹の小説は、ちょっと背伸びしたい年ごろの中学生を本好きにさせるのに、十分なものでした。あるいは、田舎者の中学生にとって都会への憧れを感じさせるようなものでもありました。
また当時、男子の間で回っていたアダルトビデオを借りる勇気もなく、その輪に入れなかった私に、性的な表現やその意味を教えてくれたのも村上春樹でした。
そうしたものを含め、ちょっと背伸びをしてみたい年ごろに読んだのは、とても良かったのだと思いたいところです。
10.ダイの大冒険
ドラゴンクエスト-ダイの大冒険- 全22巻 完結コミックセット(文庫版)(集英社文庫)
- 作者: 稲田浩司
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2010/01
- メディア: 文庫
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小学生が一番影響を受けるのは、ゲームかマンガです。ここで気取って児童文学なんて紹介しません。
まだ読んでない人、いますぐまとめ買いしてください。
ダイの大冒険というタイトルですが、この物語一番の主役はポップという普通の弱っちい男の子です。ポップに関しては、私に限らず多くの人の生き方に影響を与えているのではないでしょうか。ポップは多くの人に勇気を与えているヒーローです。
以上です。
主夫全く関係ない内容ですが、少なからず今の生活にもつながっているのかもしれません。一つ言えることは、本に影響されているとろくな人間にならない、ということです。
一度書いてみたかった、自己満足な記事でした。すみません。